新米町内会
通夜の祭式は曹洞宗である。 修証義の一連の脅し文句が実に嫌味である。 あぁ、気に入らない。 曹洞宗の葬儀次第は葬儀を寺の営業種目として行うように なってから、半ば無理矢理に成立させたものではなかろうか。 式の展開が不自然なのだ。 やはり浄土宗、…
午後6時、司会者による開式のアナウンスで通夜は始ま った。 坊さんが入場してきた。 だが、司会者は寺の名前も坊さんの名前も紹介しない。 この会場では、坊さんの入場時に檀那寺の名前と坊さん の名前をアナウンするのが通例である。 おそらくこの坊さんは…
会場の椅子は通常の半分に減らされており、最後列が ホールの中ほどになっている。 受付のカウンターも入口付近からホールのほぼ中央に 移動されている。 受付には親族と思われる人が立っていた。 通常であればこの受付業務は班の人の担当である。 私達班の…
クルマは会場に着いた。 いつもの会場である。 式の案内の看板が出ている。 この会場の式場は一階と二階がある。 一階が普通サイズの式場で、二階はその4分の一ほど の広さである。 二階の式場は、参列者が少ない式の際に使われること が多い。 今回のSさ…
Nさん宅へ行って相談し、Nさんが通夜に行かれる際に クルマに便乗させて頂くことになった。 「家族葬です」と遺族が断っていても「では、行きません」 というわけにはいかない。 それが地域の付き合いというものである。 このあたりは、全国それぞれの地域で…
Sさんの娘さんが愛犬を連れてきたことで、場の話題 はNさんの亡き愛犬の晩年の闘病の話になった。 ガンの手術費がいくらだった、といったことである。 う~ん、そんなにかかるのか。 「いくらでも出しても良いと思っていた」 そうなんですね。 話をしている…
奥の間ではSさんとKさん夫婦の話し合いが続いている。 班の皆さんはお茶を飲みながら待っている。 漏れ聞こえてくる話し合いの声は「聞いていない、聞こ えていないという設定で」(Nさん談)という姿勢になってい る。 そこへSさんの娘さんが出てきた。 軽…
線香を上げ終わると、皆さんは隣の間に移った。 お茶はいらないと断ったのだが、お茶が出された。 奥の部屋ではSさんの御遺族にKさん夫婦が、通夜・告別 式について話し合いをしているらしい。 御遺族側は家族葬ということで町内会の人の参列を断っ ている。…
私の番になった。 線香に火をつけ、合掌する。 「線香は一人一本だから」 Kさんの旦那さんが唐突にそう言った。 え? どうしてこのタイミングで言うのか? 私が何本も線香に火をつけると思ったのか? まぁ、いいか。 私は宗教心がゼロの無宗教な人間に見られ…
弔問は一戸につき一人の参列となっているもっと多 くても構わない。 KさんとNさんはご夫婦で参加されている。 Nさんの奥さんは遺体横の簡易祭壇で祈った後、Sさ んの枕元に移動した。 そして遺体の顔に自分の顔を近づいて言葉をかけて いる。 通夜・告別式で…
Sさんの遺体の横には小さな折りたたみテーブルの仏 事の簡易祭壇が設けられている。 「線香は一人一本だって。お坊さんがそう言っていた」 Sさんが張りのある声でそう言った。 そんなことを坊さんがわざわざ指示するとは思えない。 Sさんは仏事全般に疎いの…
どこに連絡したらいいのか、わからない? Sさんの奥さんのその声は家の外にいる班の皆さんにも はっきり聞こえたし、それを超えて遠くにまで響いた。 訃報の連絡をどこにしたらわからないということのようだ。 通夜は今日夜で告別式は明日である。 今頃そん…
当町内の当班では、故人が出ると集まって弔問する。 普段着で手ぶらである。 人によっては普段着と言っても黒かそれに近い服装の 方もおられる。 キッチリされている方というか常に何事にも配慮を怠ら ない方はそうする。 だが、大半は本当の普段着である。…
訃報が我が家に知らされたのは今年度の班長のKさん による。 7日朝にKさんご夫婦が我が家に来られたのだ。 訃報の告知は班長の重要な務めであるが、夫婦二人し てというのは珍しい。 と言ってもTSさんの旦那さんが亡くなられた時にもその 年の班長のNさん…
ご近所のSさんの旦那さんが亡くなられた。 94歳だった。 長らく元気な人だったが、ここ2年程は急に老け込んで いた。 昨年、私は班長を務めており色々な用事でお宅を訪問 することがあった。 大半は奥さんが対応されたが、留守の時には旦那さん が出てこ…
私は、お隣のNさんと話をしていた。 その中で我が家からも見えるある土地の話題になった。 クルマが10台ほどおける空き地である。 当ブログでも、休日にクルマで何人もの人が集合し雑 草刈りをしていたときの模様を記事にした。 草が繁ると来ては刈ってい…
倒された棒から幟を引き抜いていく。 皆で横に並んでずらしていく。 外された幟を畳んでケースに収める。 棒の先端に取付けられた笹の葉を外す。 この笹は、町内会の役員がどこかから入手してきたも のである。 その笹をお隣のNさんが預かり、幟立ての際に取…
私はこうした作業の模様を当ブログに記しているが、そ れは「どうだ、私はこんなにやっている」ということを示す つもりはない。 私の作業に臨む態度には、熱いものはない。 ただ「私も作業に参加しています」ということを他者に知 らしめるためだけのために…
次は、幟倒しである。 皆でぞろぞろと徒歩で移動する。 現場では、クレーン車が待っていた。 クレーン車には作業員が二人乗っている。 そのうちの1人が棒の途中まで登って、ロープを巻き 付ける。 もうひとりがクレーンを操作する。 これらの支払いは町内会…
幟のところに7時57分に着いた。 役員の方がひとりで立っておられる。 「門の方を先にやるそうですので」 そうですか。 私は門の方へ歩き出した。 門の周りには、人が集まっている。 私も早速作業に加わる。 門がゆっくりと倒されていく。 私は倒れつつあ…
お祭りでは、各町内ごとに2本の幟を立てる。 市内のよその町内では一本だけのところもあるようだ が、当町内連合会ではどの町内も2本である。 当町内では班を2つに分け、立てる作業と倒す作業を 一年交代で分担している。 立てる作業は土曜日の朝8時か…
私は班長の引き継ぎの袋を持ってKさん宅へ伺う。 この曜日、この時間帯ならご在宅だろう。 時にはお留守の時もある。 幸いにもご在宅だった。 私は班長引き継ぎの袋を手渡す。 Kさんは、袋の中身を改める。 私はそれを眺めている。 実は私はこの袋を前任者…
これは少し前のことだが、一応記しておく。 私は町内会の班長の引き継ぎにお隣のKさん宅へ行 った。 班長に引き継がれる書類や道具「7つ道具」が入った 袋を持っていく。 大きめのエコバッグくらいの大きさである。 7つ道具と言っても特別なものではない…
ブログの連載が続くうちに2月は終わっていた。 当町内会に新年度は3月スタートである。 これは4月上旬にお祭りがあるためであろう。 お祭りまでに一ヶ月をおき、その間に引き継ぎや準 備をするためである。 さて、私の班長を務めたこの1年間はどうだった…
慰労会もお開きの時間となった。 少し緊迫する場面もあったが、揉め事になることもなか った。 爆弾を不発に終わらせる対処の仕方を実地で見学する ことが出来た。 自分が直接関わっていないので呑気なものだが、自分 も当事者の一人だったらどうなるだろう…
SHさんの宣言により宴としてのムードの最大熱量は 幾分抑えられた感はあるが、全体的にはいつもとそれ ほど変わらない様子の会となった。 私はこうした町内の会への出席数が特に多いわけで はないが、(まぁこんなものだろう)という空気は感じら れた。 …
SHさんによる意を決しての宣言は、皆に受け流され た。 無視されたわけではない。 発言に反応することにより炎上してしまうことを避け たのである。 真面目な人ほど爆発しやすい。 真面目な人は可燃性なのだ。 爆発までの時間が短い。 一方、不まじめな人…
SHさんの「役員もうやらない発言」は、会長さんたち が受け流したため大きなインパクトは与えられなかった。 受け流す、スルーする、これも対人関係における必 須の技であろう。 人が感情の爆発を起こした場合、周囲の受け手の対 応によっては大きな揉め事…
SHさんによる「もう町内の役はやらない」宣言は、 不完全燃焼に終わった。 聞かされる方が無反応、いわゆるスルーをしたた めである。 「えぇ~、そんなこと言わないで」「まぁ、ここは穏便 に」といった言葉はかからなかった。 SHさんは皆のそうした反…
SHさんが場を外した。 すると、執行部役員の一人がこう言った。 「会長さんには言わないんですね、そういうこと」 そういうこととは、「新入りのくせに」と言った暴言である。 会長さんも戦後に引っ越してきた方なので新入りと言え よう。 当地では三〇年…