不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

小説「社長になった係長」

社長になった係長 第20話

ヤスオの社長辞任の報は、全国のユーザー に驚きと落胆をもって迎えられた。 何故こんなに早く辞任したのか、真意を測 りかねる声も聞こえた。 この突然の辞任が愚行だったのか、それと も最善の策だったのか、それは後々になって みなければわからない。 一…

社長になった係長 第19話

ヤスオは書き上げたばかりの原稿を持って 会見場にに向かった。 夜9時半、こんな時刻に社長が記者会見をす るのは異例なことだ。 会見場には新聞社や放送局の記者達が多数 集まっていた。 どこから漏れたのか、社長辞任の一報はほ んの少し前に流されていて…

社長になった係長 第18話

社長室のヤスオに、元社長のヨシローから 電話がかかってきた。 ヨシローは、社長在任中に大した功績も無 くイチローの会社にシェアを奪われそうにな ったこともあった。 そんなヨシローが何故か今でもこの会社の 顧問として大きな顔をしていることがヤスオ …

社長になった係長 第17話

ヤスオは洞爺湖での国際会議が7月 に無事終了し社長としてはもう思い残すこと は無かった。 9月1日、ヤスオは大阪の岸和田で開かれた 防災事業部の訓練を視察後、本社に戻るとす ぐに専務のタローを社長室に呼んだ。 タローの祖父は、この会社が合併巨大化…

社長になった係長 第16話

ヤスオにとって社長の座は、思いのほか軽 いものだった。 どうしてもなりたくて社長になったわけで はなく、前任の社長が腹痛で突然辞任してし まったため、成り行きでなったようなものだ ったからだ。 簡単に手に入った地位は、良くも悪くもそ の地位に大し…

社長になった係長 第15話

ヤスオは、やる気を失っていた。 いつ辞めようかと考える日々が続いた。 それでも、7月に北海道で開かれた国際会議 には、何事も無いかのような顔をして出席し た。 洞爺湖畔のホテルでのこの会議は、会社を 上げてのイベントで何年も前から準備が進め られ…

社長になった係長 第14話

ヤスオは重なる失策により疲れてしまって いた。 人はあまりに疲労が重なると、自分や自分 を取り囲む状況がどうでもよくなってくる。 それまでの人生で細心の注意を払って積み 上げてきたものにも何も感じなくなってしま う。 ヤスオは社長の座を放り出した…

社長になった係長 第13話

業務提携先との関係が悪化しただけではな く、ヤスオには他にも頭が痛いことがあった。 それは、役員の問題発言の発覚である。 農業部門を担当するセイイチが会見で「消 費者はやかましい」と口走ってしまったのだ。 この発言に、全国のユーザーは猛反発した…

社長になった係長 第12話

ヤスオの会社とアキヒロの会社は、かつて は激しく対立する関係だったのだが、シェア 争いに勝ち抜くためにお互いが譲歩し手を結 びことになったのだ。 今でも互いの社内には、かつての遺恨を忘 れていない者も多く、ヤスオもその一人だっ た。 ヤスオ自身は…

社長になった係長 第11話

ヤスオにも社長就任当時にはそれなりの展 望を持っていた。 そして唯一持っていたプランが会社合併だ った。 それが破綻してしまうと、ヤスオの経営へ の意欲は急速に減退していった。 ヤスオのそれまでのビジネスライフでも、 いくつも挫折はあったが、今回…

社長になった係長 第10話

会社合併案消滅は、イチローだけでなくヤ スオにも衝撃を与えた。 ヤスオは、自身では名案だと自負していた プランが、こうもあっさりと却下されてしま うとは思ってもいなかった。 ヤスオは外面上は飄々とした風貌をしてい たが、内心は強烈なプライドで固…

社長になった係長 第9話

会社合併が消滅したことに打撃を受けたの はヤスオだけではなかった。 交渉相手のイチローも同様だった。 イチローは側近に社長辞任を漏らした。 社内は騒然となった。 幹部は辞任を思いとどまるように訴えた。 漏れ伝えられるところによると、イチロー は涙…

社長になった係長 第8話

ヤスオとイチローがまとめた両社の会社合 併案は部下達にはあっさり拒絶された。 シェア争いに明け暮れている現場の人間の 気持ちをヤスオもイチローも理解出来ていな かった。 それに両社とも経営難にあるわけでも無い のに、どうして合併しなければならな…

社長になった係長 第7話

イチローが経営する会社は、中小の会社が 合併を繰り返して成長し、歴史が浅いながら も今や業界2位のシェアがある。 業界トップのヤスオの会社と合併させると 言う案は、時に業界に浮上することもあった が、現実味が無いと考えられており本気で検 討する者…

社長になった係長 第6話

マキコは「自分以外の存在は敵か手下でし かない」と側近に語っていた。 そして、自らへ批判者へのあからさまな敵 意を隠すことがなかった。 実はヤスオにもそれに近い思いはあったが、 それをマキコのように口に出すことは決して なかった。 ヤスオは、マキ…

社長になった係長 第5話

マキコの父は、戦後断絶していた中国との ビジネスを再開させた人物として一世を風靡 した。 その絶大な影響力は現在でも中国に残って おり、中国側は今でもマキコをVIP扱いを しているのだ。 マキコはお嬢様育ちのわがままな人間なの だが、他国でも国内…

社長になった係長 第4話

ヤスオとマキコは、それぞれの父同士が反 目しあっていたのと同様そりが合わなかった。 お嬢様育ちの上、血の気の多いマキコには 側近もお手上げだった。 マキコは自分以外の存在は、敵か手下のど ちらかでしかない、と思い込んでいた。 そして自分の思い付…

社長になった係長 第3話

マキコの父もまたこの会社の社長だった。 若い頃からかなりのやり手としてられてい たマキコの父は、若い頃土建業を起業しそこ そこの成功を収めていたのだが、より一層の 成功を狙いこの会社に入社したのだった。 典型的なエリートコースを生きてきたヤス …

社長になった係長 第2話

この会社は、他社よりも御曹司やご令嬢の 社員が多い。 ヤスオが社長室長を務めた先々代の社長も そうだった。 ライオンとあだ名されたその社長は、社内 や業界ではそれほど高い評価をされてはいな かったのだが、圧倒的な自己アピール力によ り一般ユーザー…

社長になった係長 第1話

ヤスオは、自室に戻るとポータブル・オー ディオのスイッチを入れた。 いつもは、こんな夜更けにに音楽を聴くこ とは無い。 夜の9時過ぎから行った自分の社長辞任会見 は何とか終わった。 社長室長の渋い顔が思い出される。 流れてくるバルトークの管弦楽曲…