不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第17話

 ヤスオは洞爺湖での国際会議が7月
に無事終了し社長としてはもう思い残すこと
は無かった。
 9月1日、ヤスオは大阪の岸和田で開かれた
防災事業部の訓練を視察後、本社に戻るとす
ぐに専務のタローを社長室に呼んだ。
 タローの祖父は、この会社が合併巨大化す
る前の時代の伝説的な社長だった。
 また実家はセメント業で財を成しており、
社内でも随一の富豪だった。
 タロー自身は気さくな性格だったが、その
一般からかけ離れた生い立ちや暮らしぶりや、
時に思慮の足りない発言をするため、社内に
仲間が少なかった。
 ヤスオとタローの社内での立場はよく似て
いた。
 部下の面倒見もそれほどよくなく、有能な
部下が育たなかった点もヤスオと同様であっ
た。
 違っていたのは出世欲がヤスオよりも強く、
以前から次期社長を狙っていると言われてい
た。
 ヤスオは、午後6時前にタローに社長辞任の
意向を伝えた。
 タローはヤスオの次の社長は自分だ、と言う
思いで業務をこなしてきた。
 だが、いざそれが現実になる時が突然やって
きたことがわかると、さすがのタローも動揺し
た。 
 内心は嬉しかったものの、どうしてよいのか
分からず、とりあえず辞任を強く慰留した。
 しかし、ヤスオの意志は固かった。
 その後、ヤスオは社長室長のノブタカにも辞
任を伝えた。
 ノブタカはほんの数日前に社長室長の留任が
決定したばかりなのに、もう解任されることに
なり唖然とした。
 ヤスオは、辞任会見のセッティングをノブタ
カに命じてから社長室に篭った。

 ~続く~