不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第16話

 ヤスオにとって社長の座は、思いのほか軽
いものだった。
 どうしてもなりたくて社長になったわけで
はなく、前任の社長が腹痛で突然辞任してし
まったため、成り行きでなったようなものだ
ったからだ。
 簡単に手に入った地位は、良くも悪くもそ
の地位に大した執着が無い。
 ヤスオは歴代の社長と違い、何が何でも社
長になってやる、という意気込みを秘めてこ
の会社で働いてきたわけではない。
 社長だった父のコネで入社し、父の顔を潰
さなければよい、と言うほどの思いしかなか
った。
 だが、父と違い子飼いの部下を育てようと
はしなかったし、会社の内外に人脈を作ろう
ともしなかった。
 利害の対立で関係者ともめることも無かっ
た。
 マイペースで仕事をこなしていくだけだっ
た。
 淡々と言えば聞こえは良いが、気持ちが伝
わらないと言う評判があった。
 ユーザーから気持ちが入っていない、他人
事の様に接すると言うクレームが入ってくる
こともあった。
 これにはヤスオのプライドが傷つけられて
いたのだが、ヤスオは気にしていないように
振舞っていた。
 気にしていると言うことを他人に悟られる
こと自体がヤスオには気に入らなかったのだ。
 
 ヤスオは辞任の意向を固めていた。
 それをいつ皆に伝えるのか。
 それを知っているのはプライドに囲まれて
窒息寸前のヤスオの心だけだった。

 ~続く~