不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第15話

 ヤスオは、やる気を失っていた。
 いつ辞めようかと考える日々が続いた。
 それでも、7月に北海道で開かれた国際会議
には、何事も無いかのような顔をして出席し
た。
 洞爺湖畔のホテルでのこの会議は、会社を
上げてのイベントで何年も前から準備が進め
られてきたのだ。
 会議のホスト役のヤスオにも、連日脚光が
当たった。
 鬱屈していたヤスオの気持ちも、その会議
の間はハイになっていた。
 人は大きなイベントなどで、日常から離れ
ていると何か癒されたような気分になる。
 だが、これは錯覚でしかなかった。
 会議が終わり、記念の集合写真を移す頃に
はヤスオは、元通りの沈んでいってしまった。
 洞爺湖での国際会議が終わるとヤスオには
これと言った目標が無くなってしまった。
 ヤスオは、いつ社長辞任を切り出そうかと
そればかり考えるようになってしまっていた。
 人は、一旦思考が後ろ向きになると、そう
簡単には前向きにはなれない。
 後ろ向きの思考に慣れてしまうと、それが
当たり前になってしまうからだ。
 建設的、前進的なものの見方が出来なくな
る。
 暗闇に包まれ視野は狭くなる。
 自分の足元しか見えなくなってくる。

 ヤスオは、辞任のタイミングだけを考える
ようになっていた。

 ~続く~