社長になった係長 第９話

　会社合併が消滅したことに打撃を受けたの
はヤスオだけではなかった。
　交渉相手のイチローも同様だった。
　イチローは側近に社長辞任を漏らした。
　社内は騒然となった。
　幹部は辞任を思いとどまるように訴えた。
　漏れ伝えられるところによると、イチロー
は涙ながらにその訴えを聞いたそうだ。
　普段は感情を表に出さない戦略家のイチロ
ーが感情を露にした、と言うニュースは業界
内にも大きく報じられた。
　豪腕で知られるイチローにも、この失敗は
大きかったのだ。
　連日の説得により、イチローは社長辞任を
撤回した。
　その際の社長会見でイチローは、今後は気
持ちを入れ替えて業務に取り組むことを誓っ
た。自身に定着しているこわもてのイメージ
からの脱却もあわせて表明した。
　この合併話は、イチローの社長の辞任騒動
を巻き起こしたが、同時に社内の結束を高め
る効果がもたらされたこともあり、結果とし
てはイチローの会社にはプラスに働いたのだ
った。
　側近の一人は、この騒動を「雨降って地固
まる」と話した。
　その雨は、かつて無いほどの豪雨だった。
　同じ雨は、当然ヤスオの会社にも降ったの
だが、その対応はイチローの会社とは、大き
く異なっていた。
　
　～続く～