不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第10話

 会社合併案消滅は、イチローだけでなくヤ
スオにも衝撃を与えた。
 ヤスオは、自身では名案だと自負していた
プランが、こうもあっさりと却下されてしま
うとは思ってもいなかった。
 ヤスオは外面上は飄々とした風貌をしてい
たが、内心は強烈なプライドで固められてい
た。
 プライドが傷つかなかったわけがないのだ
が、ヤスオはそれをまるで態度に出そうとし
なかった。 
 そのプライドが落胆した心情を表に出さず、
プライド自身が自己防衛をしたのである。
 鬱屈した気持ちが内にこもるようになった。
 ヤスオもイチローのように内心の吐露をす
れば、新たな展開もあったのだろうが、ヤス
オのプライドがそれを許さなかったのだ。
 一般にプライドは、好ましいもののように
考えられているが、実際にはその逆である。
 エゴを肥大化させ、その維持のためには他
者をも省みない作用を持っている。
 プライドとは、人の内面の澱であり、同時
に檻でもある。
 プライドがその人を取り囲んでしまい、萎
縮させてしまい、人としての成長を阻みその
器を小さくしてしまう。
 プライドは、苦悩の元の一つなのである。
 だが、いつの世にもプライドを称える人も
存在しており、人によっては自らのプライド
を信仰している人も存在している。
 ヤスオもプライドを大切に守ろうとしてい
る人の一人であった。
 ヤスオは、内心を誰にも吐露しないことを
選び、結果として内面のクリーンアップを図
れなかった。
 ヤスオは失敗を引きずることになった。
 下りの坂道を後ずさりして下っていくよう
な日々が始まったのである。

 ~続く~