不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第8話

 ヤスオとイチローがまとめた両社の会社合
併案は部下達にはあっさり拒絶された。
 シェア争いに明け暮れている現場の人間の
気持ちをヤスオもイチローも理解出来ていな
かった。
 それに両社とも経営難にあるわけでも無い
のに、どうして合併しなければならないのか、
と反発された。
 ヤスオには、特別な経営手腕があるわけで
もなく、人望も薄い。将来のビジョンも曖昧
なものでしかない。
 ヤスオは合併を成功させて、その後の会社
経営の基盤を築き影響力を維持しようとした
のだ。
 この合併策は、ヤスオが社長就任時に持っ
ていた唯一にして最高のプランだった。
 アイディアに乏しい人間ほど、時に思いも
寄らぬほど大胆な行動に出るものである。加
えて、その結果がどうなるかについてまでの
考察をする余裕も無い。
 ヤスオは、社内から反対の声が上がるとは
思ってもいなかった。
 自分のプランに酔っていたのだ。
 それだけにショックも大きかった。
 ヤスオは合併案の破綻が発表されても何事
も無かったように振舞った。
 それが、ヤスオのプライドだったのか、そ
れとも将来の感情表現の貧困さからくるもの
かは周囲の人間にも分からなかった。
 だが、この失敗の日からヤスオは会社経営
に情熱を徐々に失っていった。
 彼が落ちた穴は果てしなく深かった。