不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第7話

 イチローが経営する会社は、中小の会社が
合併を繰り返して成長し、歴史が浅いながら
も今や業界2位のシェアがある。
 業界トップのヤスオの会社と合併させると
言う案は、時に業界に浮上することもあった
が、現実味が無いと考えられており本気で検
討する者はいなかった。
 それをヤスオは実行に移したのだった。
 実行力に乏しく、現状維持の調整型の人間
と見られていたヤスオがこのような合併に乗
り出すとは誰も思ってもいなかった。
 ヤスオはこの合併案を秘密裏に進めていっ
た。ヤスオの側近ですら、その進捗状況まで
は知らされなかった。
 ヤスオは、イチローに直接連絡をとった。
 ホテルで会い一対一で交渉をした。
 これはヤスオにとって考えられないほどの
大胆な行動だった。
 ヤスオは安定志向の保守的な人間で、それ
までも新規の事業を起こした経験も無かった。
 合併案を提案されたイチローも最初は驚い
た。
 イチローが知るヤスオは、そのようなこと
が出来る男ではなかったからである。
 イチローも、元々はヤスオの会社の出身で
ある。
 マキコの直近の部下で早くから将来の社長
候補と言われていた英才だが、保守的な会社
の経営方針に異を唱え多くの部下を引き連れ
独立したのだった。
 大会社の幹部から、弱小企業のオーナーと
なったイチローは、シェアの獲得に苦労し続
けた。
 ヤスオの会社とイチローの会社が合併すれ
ば、過当競争から解放されるのだ。
 ヤスオとイチローは密談を重ね、合意点を
見出すに立った。
 トップ同士の交渉は意外なほどにスムーズ
に運んだ。
 二人きりの交渉は、時に理想に走り過ぎる
ものであり、現実を見失わせてしまう。
 二人の理想も、甘い夢想へと流れていった
のである。
 合併案を社に持ち帰ったヤスオとイチロー
は、幹部に説明したが、その反応は二人には
予想外なものだった。

 ~続く~