不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第12話

 ヤスオの会社とアキヒロの会社は、かつて
は激しく対立する関係だったのだが、シェア
争いに勝ち抜くためにお互いが譲歩し手を結
びことになったのだ。
 今でも互いの社内には、かつての遺恨を忘
れていない者も多く、ヤスオもその一人だっ
た。
 ヤスオ自身は、内心ではアキヒロの会社の
特異な社風が気に入らないのだが、社長とし
ては個人的な感情をもって経営判断をするこ
とは許されなかった。
 会社の規模としては、ヤスオの会社の方が
圧倒的に大きい。
 しかし、ここ数年はヤスオの会社がアキヒ
ロの会社に常に配慮した経営方針をとってい
た。  
 これが、業界内に一種のねじれを生むこと
になり、ヤスオは社内からも少なからず批判
をされるようになっていた。
 シェアを考えれば提携は不可欠だが、自分
達よりも小さな会社に縛られる経営も息苦し
い。
 ヤスオは、この事態を一気に解消しようと
して、イチローの会社との合併を図ったのだ
った。
 ヤスオは、この合併話をアキヒロには伝え
ていなかった。
 合併成立後に提携解消の連絡を入れようと
していたのだった。
 合併が発覚し、失敗に終わるとアキヒロの
会社は、急に神経質になり、態度も強硬にな
った。細かな業務上のチェックを要求するよ
うになった。業務日程にも口出しするように
なった。
 ヤスオのストレスは、以前よりも増してし
まった。
 ジレンマの中に身を置き、そのストレスに
耐えるだけの精神力は、ヤスオには無かった。
 ヤスオが、社長の座を放り出そうと考え出
したのは、この頃であった。

 ~続く~