不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第13話

 業務提携先との関係が悪化しただけではな
く、ヤスオには他にも頭が痛いことがあった。
 それは、役員の問題発言の発覚である。
 農業部門を担当するセイイチが会見で「消
費者はやかましい」と口走ってしまったのだ。
 この発言に、全国のユーザーは猛反発した。
「やかましい、とは何事だ!」と本社だけで
なく各地の営業所にも苦情が殺到した。
 幹部が何とか取り繕うとして「やかましい、
というのは、熱心だ、という意味だ」と弁明し
たが、焼け石に水だった。
 農業部門の役員は、ここ数年何らかのトラ
ブルを抱えた者ばかりだった。
 経費をごまかし解雇された者もいる。
 そのような者が役員になったのも、特殊な
手腕が必要とされる農業部門の責任者が社内
に少なかったため、多少の問題があっても起
用せざるを得なかった社内事情があったから
だ。
 大きなバッシングを受けたが、結局セイイ
チは役員を退くことはなかった。
 そのため解任しなかったヤスオにも批判が
集まった。
 だが、ヤスオは何も対応をしようとしなか
った。
 ヤスオは、自分が傷つけられることには過
敏に反応するが、他者を傷つけることには鈍
感なのだった。
 無論、意図して傷つけることまではしない
のだが、自分の発言や行動がどれほどの影響
力を持っているかまでは考えが及ばない。
 自分のプライドを守るのに精一杯で、他者
に対する配慮にまで気が回らないのだ。
 ヤスオを取り巻く状況は日々悪化していっ
た。
 そして、その要因を作り出したのは他なら
ぬヤスオ自身であることにヤスオは気が付い
ていなかった。
 人の鈍感さは、その人を守る砦である。
 そして、その内側で人は少しずつ愚かにな
っていく。
 ヤスオもその例外ではなかった。

 ~続く~