不二家憩希のブログ

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社長になった係長 第6話

 マキコは「自分以外の存在は敵か手下でし
かない」と側近に語っていた。
 そして、自らへ批判者へのあからさまな敵
意を隠すことがなかった。
 実はヤスオにもそれに近い思いはあったが、
それをマキコのように口に出すことは決して
なかった。
 ヤスオは、マキコほど短絡的ではなく、あ
る程度の常識的な言動を心がけていた。
 しかし、内心に抱いている思いは遠からず
何らかの形で表に現れてくるものである。
 ヤスオの場合は、発言の一つ一つが他人事
に聞こえると言う形で皆に知られることにな
った。
 事実ヤスオは自分以外の人間にはそれほど
興味が無かった。
 子供頃から社長の父の取り巻きが家に出入
りしており、父の引退後はそれらの取り巻き
がヤスオの方に集まるようになった。
 幼い頃から、人が集まる環境に暮らしてい
たため、人に関して鈍感になってしまってい
たのだ。
 人は自分の周りに勝手に集まるものだとい
う感覚は、一種の錯覚でしかないのだが、そ
の感覚がヤスオの性格形成に大きな影響を与
えていた。
 他者が持っている自己重要感を尊重するこ
とが出来なかったのだ。
 他人と接する時に、どこか冷ややかな感じ
を与えてしまうのもそのためだった。
 会社の成り行きで、社長になったヤスオだ
ったが、この性格が改められることは無かっ
た。
 組織の上に立つ者に人間に対する熱意が無
ければ、組織がまとまるわけが無かった。
 ヤスオには元々組織運営は無理だったのか
もしれない。
 それが明らかになってしまったのは、イチ
ローの会社との大胆な交渉が発覚した時であ
る。

 ~続く~