不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

社長になった係長 第4話

 ヤスオとマキコは、それぞれの父同士が反
目しあっていたのと同様そりが合わなかった。
 お嬢様育ちの上、血の気の多いマキコには
側近もお手上げだった。
 マキコは自分以外の存在は、敵か手下のど
ちらかでしかない、と思い込んでいた。
 そして自分の思い付きをそのまま実行に移
そうとして周囲に人間と衝突した。
 マキコは、ライオン社長に海外事業部長に
抜擢されて時も数々の問題を巻き起こした。
 朝鮮半島の重要な取引相手とろくに交渉も
せず、帰国させてしまったこともある。
 執務室で自分のイアリングが無くなった、
と大騒ぎをしたこともあった。
 ヤスオとも当然のようにぶつかった。
 仕事が自分の思惑通りに進まないのは、ヤ
スオが影から手を回しているからだろうと思
い込んだ。
 しかし実際には何もしていないヤスオは、
マキコが何を言おうと平気だった。
 いらだつマキコはその思い込みを業界紙
記者にべらべらと喋り始めた。
 ヤスオの陰謀が海外事業部に張り巡らされ
ているかのように語った。
 記者は、格好のネタがつかめたと喜び書き
たてた。
 経営幹部同士のトラブルは、一般ユーザー
も知るところとなった。
 ことが大騒ぎになっていってもヤスオは、
特に対処策を講じることは無かった。
 ヤスオは、自分の過失でもないことに首を
突っ込みたくは無かったのである。他人の面
倒ごとを自分が背負うなどと言うことはヤス
オには到底考えられなかった。
 つまりヤスオは親分肌ではないのである。
 この姿勢は、ヤスオが社長になってからも
変らず、その姿勢が社長退任につながってい
ることを、ヤスオは気がついてはいなかった。
 結局、マキコは自ら海外事業部長の職を辞
することになった。
 マキコは自分を辞任に追い込んだ、と事あ
るごとにライオン社長とヤスオの悪口を記者
に言いまくった。
 その後、数々のトラブルを起こし退社に追
い込まれた。
 ヤスオが社長就任の際、取材に来た記者に
「あんな男、すぐに投げ出すに決まっている
わ」と語った。
 はからずも、後にこの発言は的中する。
 だが、その時はこの発言を誰も気にも留め
なかった。
 敵は味方よりもその相手をよく観ているも
のなのである。

 ~続く~