不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Sさんの旦那さんが亡くなられた。その⑤

 Sさんの遺体の横には小さな折りたたみテーブルの仏
事の簡易祭壇が設けられている。
 「線香は一人一本だって。お坊さんがそう言っていた」
 Sさんが張りのある声でそう言った。
 そんなことを坊さんがわざわざ指示するとは思えない。
 Sさんは仏事全般に疎いのだろう。
 言葉のニュアンスでそれは感じ取れた。
 それと同時にSさんは体裁を気にする人である。
 私はこうした人を”体裁第一主義(者)”と呼んでいる。
 小さな恥でも絶対かきたくない。
 後ろ指を一瞬でも指されたくない。
 それで坊さんがお経を読みに来た際に作法を尋ねた
のだろう。
 それを皆にも教えてやろう、皆も知らないに違いないと
考え、そう言ったのであろう。
 一種の知ったかぶりである。
 自分が不案内だと他の人も同じだと思ってしまうのは、
よくあることである。
 そうした点を細々と推理し、その上匿名・イニシャルと
は言えブログに載せてしまう私もどうかと思うが(笑)
 班の皆さんが順々に線香を上げ手を合わせる。
 遺体を目の前にしての合掌である。
 非日常的な光景である。
 空気も特殊である。

 ~続く~