Sさんの遺体の横には小さな折りたたみテーブルの仏
事の簡易祭壇が設けられている。
「線香は一人一本だって。お坊さんがそう言っていた」
Sさんが張りのある声でそう言った。
そんなことを坊さんがわざわざ指示するとは思えない。
Sさんは仏事全般に疎いのだろう。
言葉のニュアンスでそれは感じ取れた。
それと同時にSさんは体裁を気にする人である。
私はこうした人を”体裁第一主義(者)”と呼んでいる。
小さな恥でも絶対かきたくない。
後ろ指を一瞬でも指されたくない。
それで坊さんがお経を読みに来た際に作法を尋ねた
のだろう。
それを皆にも教えてやろう、皆も知らないに違いないと
考え、そう言ったのであろう。
一種の知ったかぶりである。
自分が不案内だと他の人も同じだと思ってしまうのは、
よくあることである。
そうした点を細々と推理し、その上匿名・イニシャルと
は言えブログに載せてしまう私もどうかと思うが(笑)
班の皆さんが順々に線香を上げ手を合わせる。
遺体を目の前にしての合掌である。
非日常的な光景である。
空気も特殊である。
~続く~