Sさんの奥さんのその声は家の外にいる班の皆さんにも
はっきり聞こえたし、それを超えて遠くにまで響いた。
訃報の連絡をどこにしたらわからないということのようだ。
通夜は今日夜で告別式は明日である。
今頃そんな事を言っているのか?
親戚、知人には連絡していないのか?
これって聞いて良かったのか?
こういう時には聞いてないふりをするのが大人のマナー
である。
私はそう思ったし、他の皆さんもそうしているようだった。
何かとすぐに口に出してしまうTSさんですら黙っている。
他の用事なら出直すところだが、今回は弔問である。
大勢の人間が外で待っているわけにもいかない。
ゆっくりとSさん宅へ入る。
玄関の間でSさんが出迎えてくれた。
「お茶を出して!」
Sさんは親戚の誰かに指示を出す。
本当はお茶どころではないのだろうが、まずはそういう対
応するというのが日本のお約束なのであろう。
お茶を断りながら皆は座敷に上がった。
~続く~