不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Sさんの旦那さんが亡くなられた。その⑮

 通夜の祭式は曹洞宗である。
 修証義の一連の脅し文句が実に嫌味である。
 あぁ、気に入らない。
 曹洞宗の葬儀次第は葬儀を寺の営業種目として行うように
なってから、半ば無理矢理に成立させたものではなかろうか。
 式の展開が不自然なのだ。
 やはり浄土宗、浄土真宗の葬祭次第の持つ優雅さにはか
なわないな。
 そして焼香がはじまった。
 参列者が少ないので、すぐに私達の番になった。
 席に戻り、読経に耳を傾ける。
 何か事務的な響きがあるなぁ。
 読経が終わり、坊さんの退場となった。
 だが、何も言わず、あっさり会場を出ていった。
 あれ?
 何も言わないの?
 当地では通夜の終わりに坊さんが参列者に向かってマイク
を通して何か一言語るのが通例となっている。
 今回はそれが無い。
 やはり、葬儀業者の紹介なのであっさりしたもんだな。
 Nさんの旦那さんも同じように思ったそうだ。
 まぁ、それもS家の事情によるものなので、近所の人間が口
を挟むことでなかろう。
 式後、何人もの女性が遺体の顔を見に行った。
 Sさんの家で散々見ただろうに、まだ見たいのか。
 魂の抜け殻であるただの腐りやすい物質に、もはや意味は
殆ど無い。
 私は棺に群がるその様子を冷めた目で眺めていた。

 ~続く~