「あんな風に言うんだったら、皆に来てもらえば良かっ
たのに
Nさんの旦那さんがそう言った。
これは喪主として最後に挨拶したSさんの息子さんの
言葉を指している。
「皆様にお集まりいただき、故人もさぞ喜んでいると思
います」
もう少しで泣きそうなほど気持ちが入っていた。
型通りの文句を言っただけとは思えない感情の高ぶり
が聞き取れた。
Sさん一家では、普通の葬儀にするか家族葬にするか
で揉めたのではなかろうか。
Sさん宅への弔問の際にも、混乱した空気は感じられた。
そうした点も喪主挨拶での感極まった様子に影響を与
えたのではなかろうか。
葬儀は揉めるケースも珍しくない。
行事は淡々と進みつつも、内心ではいろいろと沸騰した
り沈み込んだりしていたりする。
そして私達はクルマに乗り家に帰る。
発車してすぐに話が始まる。
自分がいつ死ぬのか、どんな葬儀にしてほしいといった
話題である。
「人間、いつ死ぬかわからんもんね」
気持ちの準備が出来ているのか、ただ口でいろいろ言っ
ているだけなのか。
クルマはすぐに家に着いた。
Nさん夫婦とTSさん、そして私は、通夜だけに参列し告別
式は出ないことにした。
~続く~