不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Sさんの旦那さんが亡くなられた。その⑯

 会場から出る。
 「あんな風に言うんだったら、皆に来てもらえば良かっ
たのに
 Nさんの旦那さんがそう言った。
 これは喪主として最後に挨拶したSさんの息子さんの
言葉を指している。
 「皆様にお集まりいただき、故人もさぞ喜んでいると思
います」
 もう少しで泣きそうなほど気持ちが入っていた。
 型通りの文句を言っただけとは思えない感情の高ぶり
が聞き取れた。
 Sさん一家では、普通の葬儀にするか家族葬にするか
で揉めたのではなかろうか。
 Sさん宅への弔問の際にも、混乱した空気は感じられた。
 そうした点も喪主挨拶での感極まった様子に影響を与
えたのではなかろうか。
 葬儀は揉めるケースも珍しくない。
 行事は淡々と進みつつも、内心ではいろいろと沸騰した
り沈み込んだりしていたりする。
 そして私達はクルマに乗り家に帰る。
 発車してすぐに話が始まる。
 自分がいつ死ぬのか、どんな葬儀にしてほしいといった
話題である。
 「人間、いつ死ぬかわからんもんね」
 気持ちの準備が出来ているのか、ただ口でいろいろ言っ
ているだけなのか。
 クルマはすぐに家に着いた。
 Nさん夫婦とTSさん、そして私は、通夜だけに参列し告別
式は出ないことにした。

 ~続く~