った。
用事を済ませていると、後方から声をかけられた。
振り向くとSさんが座っていた。
「今回は、どうもありがとうね」
Sさんはいつも通りな感じだった。
特に沈んでいるようでもなかった。
私は簡単にお悔やみの言葉を述べた。
亡くなったSさんは94歳で大往生と言える年齢である。
晩年にかけて大きく患うこともなく寝込むこともなかった。
だが、Sさんの弟たちが近年次々と先立たれ、それ以降急
に元気がなくなっていったそうだ。
その他いろいろとお話をした。
Sさんは、幾分クセのある人だが悪い人ではない。
今回の当連載記事では批判的に記した点もあったが、普
通の善良な人である。
家族が亡くなるといろいろと混乱が起きるのは仕方がない
ことであろう。
気持ちの準備ができていても、実際にはうまくいかないこ
とも起こる。
人の死とはそういうものである。
長生きをすると、身内や友人・知人たちが先に没してしまい、
自分だけ取り残されたようになってしまう。
長生きは素晴らしいことのようで、そうでもない一面もある。
90歳代まで生きるのも良し悪しと言えるのではなかろうか。