この曜日、この時間帯ならご在宅だろう。
時にはお留守の時もある。
幸いにもご在宅だった。
私は班長引き継ぎの袋を手渡す。
Kさんは、袋の中身を改める。
私はそれを眺めている。
実は私はこの袋を前任者から受け継いで以来、一度
も中身を見ていない。
本来なら確認するのであるが、していない。
内心ではやりたくないので、見たくもなかったのである。
良くないこととは自覚してはいるが、見たくないものは
見たくない。
袋の中に特別なものが入っていたり、特別なことが記
されているわけではないが、見たくないのだ。
だが、業務は万全に行った。
Kさんは、帳簿用のノートを確認している。
「ここにケーキ君の〆と署名がないね」
そう指摘され私は書き入れる。
署名が無いのも当然である。
今初めて見たからである。
忘れたふりをしてとぼける。
Kさんも感づいておられるのだろうが、知らんふりをし
ておられる。
注意をして気まずくなるのを避けたのであろう。
さすがの対人力である。
その他には、不備はなさそうだ。
「ハイ、それではご苦労様でした」
私はそう声をかけられた。
これで班長業務は引き継がれた。
帰り道の足取りは軽かった。