不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Aさん亡くなる。その④

 Aさんには医師として決定的な欠陥があった。
 薮だったのだ。
 当地の住民の皆さんは、Aさんの医院開業を歓迎した。
 特に年配の住民は喜んだ。
 近くに医院があれば便利だと言い合った。
 だが、私は自分の目で見てみるまでそうした評判は無
視した。
 私は軽い風邪でA医院に行った。
 本当は医者にかかるほどの症状ではなかった。
 市販薬を飲んで早めに寝れば治るであろうというような
程度だった。
 ではなぜ受診したのか?
 私はAさんの医師としての腕前を測りたかったのだ。
 診察室の壁の上部にはAさんの恩師から贈られたと思
われる言葉が毛筆で書かれた額がかかっていた。
 後日このことを皆に話すと「えぇ?そんな額あったかなぁ」
という答えばかりだった。
 私は最初から観察が目的での受診なので気づいて当
然だったのかもしれない。
 Aさんは、一言二言私に尋ねると、看護師に採血を命じ
た。
 えぇ~?採血?
 こんな程度で血を採るのか?
 当時は今ほど血液によって多くの病状が診断できるとい
う時代ではなかった。
 採血が終わると次はレントゲン撮影だと言う。
 レントゲン?!
 軽い風邪でレントゲンを撮るのか!
 あぁ、駄目だ。
 正確な見立てができないばかりではなく、点数稼ぎま
でするのか。
 後日、私は「Aさんは薮だ。薮と言うよりジャングルであ
る」と皆の前で断言した。
 採血やレントゲン以外にもAさんには薮を表すいくつも
のポイントがあったのだ。
 皆は「本当か?」「そんなこと言うもんじゃない」などと
私の意見には否定的だった。
 だが、日が過ぎるにつれ私の見込みが正しいことが証
明されることになった。
 Aさんが薮だと見抜いたのは私が最初だった。
 
 ~続く~