Aさんには医師として決定的な欠陥があった。
薮だったのだ。
当地の住民の皆さんは、Aさんの医院開業を歓迎した。
特に年配の住民は喜んだ。
近くに医院があれば便利だと言い合った。
だが、私は自分の目で見てみるまでそうした評判は無
視した。
私は軽い風邪でA医院に行った。
本当は医者にかかるほどの症状ではなかった。
市販薬を飲んで早めに寝れば治るであろうというような
程度だった。
ではなぜ受診したのか?
私はAさんの医師としての腕前を測りたかったのだ。
診察室の壁の上部にはAさんの恩師から贈られたと思
われる言葉が毛筆で書かれた額がかかっていた。
後日このことを皆に話すと「えぇ?そんな額あったかなぁ」
という答えばかりだった。
私は最初から観察が目的での受診なので気づいて当
然だったのかもしれない。
Aさんは、一言二言私に尋ねると、看護師に採血を命じ
た。
えぇ~?採血?
こんな程度で血を採るのか?
当時は今ほど血液によって多くの病状が診断できるとい
う時代ではなかった。
採血が終わると次はレントゲン撮影だと言う。
レントゲン?!
軽い風邪でレントゲンを撮るのか!
あぁ、駄目だ。
正確な見立てができないばかりではなく、点数稼ぎま
でするのか。
後日、私は「Aさんは薮だ。薮と言うよりジャングルであ
る」と皆の前で断言した。
採血やレントゲン以外にもAさんには薮を表すいくつも
のポイントがあったのだ。
皆は「本当か?」「そんなこと言うもんじゃない」などと
私の意見には否定的だった。
だが、日が過ぎるにつれ私の見込みが正しいことが証
明されることになった。
Aさんが薮だと見抜いたのは私が最初だった。
~続く~