Aさんが薮であるということは、次第に知られることに
なる。
それでも近所の高齢者層は気にせず通院していた。
気にはしていたのかもしれないが、家の近くにある医
院で通院が楽なことには代えられないと考えていたの
かもしれない。
そのような状況が大きく変わる事態が起き始めた。
当班のKさんは、体調の不調を感じA医院を受診した。
Aさんは「特に何でもありません」と診察した。
Kさんは、その診断に従い、時折通院することになった。
だが、体調は一向に良くならない。
どうにもおかしいとなり、Kさんは別の病院でも診察を
受けた。
癌だった。
「どうしてもっと早く来なかったのだ?」と言われた。
初期であってもわかりやすい病変だったらしい。
Kさんは、それから少しして亡くなった。
我が家は古くからKさんとは懇意にしていたので、細か
いいきさつも承知している。
噂ではなく、実話である。
この事実はあっという間に知れ渡った。
その頃には開業当初から勤務していたもう一人の医師
は退職していた。
事務長も退職していた。
医院内の医療関連事業も閉鎖した。
誤診がどのくらいあったのかは、明らかにはなっていない。
患者の足は目に見えて減っていった。
~続く~