不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Aさん亡くなる。その⑤

 Aさんが薮であるということは、次第に知られることに
なる。
 それでも近所の高齢者層は気にせず通院していた。
 気にはしていたのかもしれないが、家の近くにある医
院で通院が楽なことには代えられないと考えていたの
かもしれない。
 そのような状況が大きく変わる事態が起き始めた。
 当班のKさんは、体調の不調を感じA医院を受診した。
 Aさんは「特に何でもありません」と診察した。
 Kさんは、その診断に従い、時折通院することになった。
 だが、体調は一向に良くならない。
 どうにもおかしいとなり、Kさんは別の病院でも診察を
受けた。
 癌だった。
 「どうしてもっと早く来なかったのだ?」と言われた。
 初期であってもわかりやすい病変だったらしい。
 Kさんは、それから少しして亡くなった。
 我が家は古くからKさんとは懇意にしていたので、細か
いいきさつも承知している。
 噂ではなく、実話である。
 この事実はあっという間に知れ渡った。
 その頃には開業当初から勤務していたもう一人の医師
は退職していた。
 事務長も退職していた。
 医院内の医療関連事業も閉鎖した。
 誤診がどのくらいあったのかは、明らかにはなっていない。
 患者の足は目に見えて減っていった。

 ~続く~