私は自転車で走っている。
今日も無風の晴天である。
雲はあるが、雨が降る気配はゼロである。
自転車は踏み切りで列車の通過を待っている。
踏み切りの向こう側には選挙カーが停まっている。
ここ数日わが家の周辺にもよく回ってきている候
補者だ。
あれ?
何も言わない。
選挙の連呼が聞こえない。
踏み切り待ちの間は、おとなしくしているのだろう
か。
一カ所に停車して大音量を発していると、逆効果
ということか?
あるいは、周辺住民への配慮なのか。
列車が通り過ぎ、踏み切りが上がった。
私は踏み切りを渡る。
選挙カーの中を覗いてみる。
運動員がクルマのシートでグッタリしている。
後部座席に二人乗っている。
一人は体を前に折り曲げてうつむいている。
一人はシートに体を預けて天井を向いている。
二人とも疲れた顔をしている。
どちらかか、あるいは両方がマイク担当だろう。
少しして選挙カーは、ゆっくり走り出した。
踏み切りをわたり、少ししてから選挙の連呼が始
まった。
あぁ、あの踏み切りでの沈黙は近隣への配慮と
いうよりも、運動員が疲れていて、休んでいたのだ
ろう。
声を張って連呼するのは、意外と疲れる。
体力消耗が大きい。
これが毎日だと、そりゃくたびれるだろうなぁ。
選挙カーは、連呼を続けて走っていった。
その声には、少し悲壮感があるような気がした。