私は自転車で走っている。
今日も晴れである。
ほぼ無風の穏やかな日である。
私は市の中心部に向かっている。
市を東西に横切る幹線道路を走る。
遠くから、誰かが叫んでいる声が聞こえてきた。
「・・・・お願いします」
二つ向こうの交差点の歩道にスーツの男性とジャ
ンバーの女性が二人いる。
白い手袋をして、大袈裟に手を振っている。
手旗信号のような動き方だ。
スーツの男性はたすきを斜めにかけている。
選挙運動か。
たすきの男性は叫び続ける。
拡声装置無しである。
素の声で叫ぶことにより、やる気を見せようとしてい
るのだろうか?
う~ん、あまり効果があるとは思えないなぁ。
どうしても絶叫調になってしまい、切迫感が増してし
まう。
そこを狙っているのかもしれない。
だが、聞いているこちらが恥ずかしくなってしまう。
私の自転車は交差点に近付く。
候補者は交差点の向こう側の歩道にいる。
「ご一票をお願いします」
う~ん、そんなに叫んでお願いされてもなぁ。
私は交差点を左に曲がった。
候補者は叫び続ける。
その声を背に私は走り続ける。
声が小さくなり聞こえなくなる。
私はそのまま走り続けた。