自転車でいつもの通りを走る。
通りから少し入った路地を真っ直ぐ行く。
突き当たりのお宅に変わった模様が見えてきた。
屋根付きの物干しに巨大な目玉がぶら下がってい
る。
目玉の横には、これも巨大なうろこが並んでいる。
鯉のぼりだ。
真鯉である。
物干し竿にくし刺しにされて、横になっている。
無表情で、目玉はこちらを向いているのか。
それとも、どこか違う方向を見ているのか。
そうか。
もうすぐこどもの日である。
この真鯉は、ここ数日、上空で遊泳勤務に就いてい
たのだろう。
今日はお休みをもらったのか?
天気がもう一つなので臨時休業なのか。
そこにいるのは真鯉だけである。
緋鯉やこどもの鯉が見当たらない。
他の家族はどうしたのだろう。
家の中で寛いでいるのだろうか。
否、あれは一応家族という設定であるが真相はわか
らないぞ。
ひょっとしたら家族ではないのかもしれぬ。
このあたりはプライバシーに関わるので詮索はしな
いでおこう。
私は、真鯉の視線の先の方向へ自転車を走らせた。