不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

ギターコレクター氏の愛情

 前回書いた、そのビンテージギターの店で、いつも買い物をする
人の話を聴いた事がある。
 その人は、80万円以上のギターを何本も持っているのであった。
 ギターをコレクションしている人は、アマチュアの音楽愛好家の
中にもいるのであろうが、その人は少々変わっている。
 30代前半の普通のサラリーマンで、高給取りというわけでもな
いその人は、お金が入るとギターを買ってしまうのだそうだ。
 本人は、ギターを全く弾かないのだ。弾けない、弾く能力がない、
弾くつもりがないのだ。ただ、ギターを集めるだけなのである。
 そのビンテージギターの店で扱っているのは、主にエレクトリッ
クギターである。
 その人は、エレキギターを持っていて眺める、というのが趣味、
という人なのであった。
 最近では、ごく一部ではあるが、エレキギターを投機の対象とし
て購入して保管している、という人もいることはいる。だが、そう
いう人は、ごく例外的な存在である。
 その人は、ギターを買って、部屋に飾り、時折磨いて楽しんでい
る、というのが、至上の楽しみだ、と語っているのである。
 そして、そのギターに飽きると、そのギターを売却して、違うギ
ターを買うのだそうだ。
 その人が言うには、ボディのフォルムや輝きとかが堪らないのだ
そうだ。フェンダーよりもギブソンが好きなのだそうだ。
 ギターを弾かずに、眺めるために買う。自分のお金をどう使おう
と勝手なのだが、私は何とも、ただならぬ不健康なものを感じた。
 聞けば、その人は弾かない上に、弦の張り方もご存知ないらしい。
弾かないのだから、弦の張り方など知らなくても当然なのだが、つ
まりは、メンテナンスの仕方もよくは知らないそうなのだ。
 後日、私は、そのギターコレクター氏を見かけることが出来た。
 思っていた通りの、少々病的な人であった。
 その人は、何軒かのギターショップで、ギターを買っていたので
あったが、そのうちの一軒の店のオーナーは、そのコレクター氏を
評して、こう言ったのだそうだ。
 「あの人は、今までに、真剣に生きている女性を好きになったこ
とは、ないのだろうな」
 大のお得意さんを、こんな風に評してしまう、そのオーナーの気
持ちは、よくわかる。
 では、その人が不幸せか?というと、その趣味のおかげか、幸せ
そうなのである。
 私は、大きなお世話とも思うが、本当にそうなの?と問いたい気
持ちは今も持っている。
 ギターだから、こんな風に私のような他人に書かれてしまうが、
これが焼き物だったりすると、よい趣味、文化に造詣がある、と評
されるのだろう。
 だが、私はその根は変わらないと思う。