翌日、ドラゴンズは来期の新体制を発表した。
このタイミングでの発表とは、ドラゴンズも配慮が
足りないように思える。
発表された陣容は以下の通りである。
藤真市(43)▽捕手・長谷部裕(43)▽打撃・宇野勝
野守備走塁・前原博之(44)▽外野守備走塁・上田佳
範(38)▽育成・早川和夫(51)▽トレーニング・塚本洋
(36)、住田ワタリ(34)
外野守備走塁コーチの上田氏を除くと、あとは全員ド
ラゴンズOBである。
この体制に、ドラゴンズをファンを含めた野球ファンから
は疑問の声があがっている。
「どうして、こんなにOBばかりを起用するんだ!」
「球団はOBの天下り先か!」
これらの監督、コーチ陣のなかには極めて優秀な人も
含まれているが、逆にその能力がかなり疑問視されて
いる人も入っている。
コーチとして的確性に欠けるとして、解雇された経験を
持つ人も何人もいる。
では何故ドラゴンズは、このような体制になってしまう
のだろうか?
ネット上では「名古屋の地元の財界の爺ィたちがドラゴ
ンズに圧力をかけてOB中心の体制にしたのだ」という声
が多いようだ。
この意見は外れてはいないが、説明不足である。
ドラゴンズの親会社は、愛知・岐阜・三重を中心とした
東海三県を中心に新聞を発行している中日新聞社である。
これら3県では中日新聞の購読率は極めて高く、特に愛
知県では世帯にして90%以上、県庁所在地である名古屋
では95%以上が中日新聞の読者といわれている。
これは控え目の数字で地域によっては、99%以上のと
ころも珍しくはない。
愛知や岐阜では中日新聞は圧倒的な影響力を持ってい
るのだ。
その新聞社が親会社であるドラゴンズは、チームとして地
元財界に後援会を持っており、また選手個人でも後援会が
つく。
相撲で言うところのタニマチである。
財界には、それぞれお気に入りの選手がいるのだ。
選手も時が来れば現役を引退する。
だからといってすぐに後援会とのつきあいが無くなるわけ
ではない。
次は指導者としての現場復帰を後援会は希望する。
選手時代は、その活躍が数字として明確に現れるので、
後援会は何も言えない。
だが、監督、コーチとしての起用は別である。
後援会は何とか、現場復帰を球団に希望する。
ここでまともな球団なら、そうした外部の声には耳を貸さな
い。
だが、ドラゴンズはそうはいかない。
「OBの○○をコーチで使ってくれよ。駄目?ならこっちにも考
えがある」
ドラゴンズの親会社は前述のように中日新聞だ。
財界は、中日新聞に広告を掲載する大事なスポンサー様
なのだ。
新聞社にとっては、一般の購読者も大切だが、広告を出
稿してくれるスポンサーはもっと大事である。
何しろ大口の取引が定期的に見込めるからだ。
新聞そのものの売り上げと、広告による収入との2本柱で
新聞経営は成り立っている。
そのうちの大きな柱の持ち主から、頼まれたらなかなか
嫌とは言えない。
そのため、ドラゴンズにはOBの監督、コーチが大量に雇
われるということになる。
ちなみに、名古屋のローカル局の野球解説者も見事に
OBばかりである。
こちらも、財界が「○○を解説者として使ってくれ」と要請
する。
放送局もCMが欲しいので財界の言いなりになってしまっ
ている。
こうした構図は、ドラゴンズだけではないようだ。
ジャイアンツでも、OB起用に妙にこだわるのは、このため
である。
落合博満前監督は後援会を持たなかった。
地元財界のパーティーや催しなどには一切参加しなかっ
た。
落合は直接野球とは関係ないタニマチ付き合いにはエネ
ルギーを使いたくない人間なのだ。
落合は、そういう男なのだ。
「俺たちに尻尾を振らないとは、けしからん」
名古屋の財界には、落合は面白くない、という空気が充
満していた。
その反動が、今回のドラゴンズの新体制に反映されたの
である。
落合と彼が選んだコーチたちがドラゴンズを去った。
これからは中日ドラゴンズの暗黒時代の始まりである。
中日の凋落は、既に始まっておりその終幕へと歩みを速
めている。
新聞離れは、加速度的に進んでおり、球団経営は新聞
社の手に負えるものではなくなってきている。
次に落合がドラゴンズの監督を務める頃には、名古屋の
球団であるドラゴンズは名称が変わっていることだろう。
「トヨタ・ドラゴンズ」