マルチ商法にはまった友人 ①

　私の周辺にも過去にマルチ商法にはまって
しまった人がいる。
　マルチ商法は、たちの悪い宗教と同じよう
に、集まって来る者に対し一種の洗脳を施し
人間を内面から変えてしまう。
　洗脳の技法にはいろいろあるが、それらは
人の持つ恐怖もしくは欲を刺激することで成
り立っている。

　これは何年も前のことである。
　私の高校からの友人から私の家に電話が入
った。
　型通りの挨拶の後、彼はこう言った。
「お前、今、夢ってある？」
　親しい仲とは言えど急にそんなことを尋ね
られるとは尋常ではない。
　私は身構えた。
　私は適当に答えることにした。
「そうだねぇ～、今は特に無いかな」
　私の返事を聞いて、彼は待ってましたと語
り始めた。
「俺の夢はボルボを買って乗ることなんだ」
　私とその友人とは、夢を語り合ったことは
今までなかった。テレビドラマじゃあるまい
し、お互いの夢を交換するなんてことはした
こともなかった。
　それにしても、ボルボに乗る？
　それが夢なのか？こいつは、そんな夢を持
っていたのか。知らなかった。
　でも、なんでボルボなんだ？
　彼は、話を続けた。
「俺はその夢をかなえるために、新しいこと
を始めようと思ったんだ」
　彼はそう言ってその新しいことの説明を始
めた。
　聞くとそれはマルチ商法ではないか！
　これはまずいと思い、私は自分にそのビジ
ネスには興味が無いことを告げた。
「いやぁ～、お金が無いんだよねぇ～」
　このセリフは殆どのセールス撃退に効き目
がある。相手のやる気を失わせるには、これ
が一番だ。
　だが、彼はなおも勧めてくる。
　さすが洗脳を施されているだけの事はある。
簡単にはあきらめない。粘り強く勧めてくる。
　この時は、しばらく押し問答のようにした
後、電話を切った。
　その後も、何日も電話をかけてきた。
　そのたびに断っても彼はめげない。
　元々彼はセールスの仕事をしていたわけで
はなく、それとは正反対の寡黙な仕事をして
いたのだ。
　まるで別人のように話し続けた。
　これが洗脳の威力なのか。
　だが、彼はこんなことしていて大丈夫なの
か？
　彼は、結婚を間近に控えた身なのだ。
　
　～続く～