不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

マルチ商法にはまった友人 ②

 アムウェイマルチ商法にはまってしまっ
たその友人は、結婚を数ヵ月後に控えていた。
 婚約者は、彼がマルチ商法に入っているこ
とを知っているのだろうか?
 私は、そのことを彼に尋ねた。
 すると、彼はその婚約者に誘われてマルチ
商法を始めたのだと言う。
 何だ。そう言うことか。
 二人は、新しいビジネス(マルチ商法)に
明るい未来を託しており、今後訪れるであろ
う夢のような日々を語り合っているのだそう
だ。
 何ともおめでたい人たちである。
 マルチ商法で幸せを掴もうとしているのだ。
 相当、脳を洗われているに違いない。
 
 私は、言葉を尽くして彼を説得した。
 何日も粘り強く話した。
 口論にもなった。
 だが、彼は聞き入れない。自分はこのビジ
ネスで幸せになるのだ、なれるのだと確信し
ている。
 そこで私は、彼にそのビジネスのリスクは
どの程度あるのか、と尋ねた。
 どのようなビジネスにもリスクはあり、儲
けが大きければ大きいほどリスクは比例して
大きい、というのが常識である。
 しかし、彼は私の質問の意味がわからない
ようだった。
 どうやら、彼は洗脳の過程でリスクに対す
る概念を削除されてしまっているようだった。
 あるいは、最初からリスクなどというもの
を知らなかったのかもしれない。
 そうでなければマルチ商法に入ってしまう
ようなこともなかったのかもしれない。
 私は、ビジネスにおけるリスクの概念を理
解できない彼をいくら説得しても無駄だと思
った。
 リスクも無く儲かる一方だと信じ込んでい
る人間に理論的に話しても効果は見込めない。
 私は、共通の友人であるNと連絡を取った。
 Nは彼とは保育園以来の友人である。
 Nもやはり、彼から勧誘を受けていた。
 私は
「もう、どうしようもないね。あいつ、その
うちあらゆる対人関係を壊していくんだろう
な」と言った。
 するとNは、
「そういう事態になった時に、フォローして
やるのが本当の友人だろ」と言った。
 う~ん、さすが教員をしているだけのこと
はある。言うことが青春ドラマのセリフみた
いである。

 その後、マルチ商法にはまった友人は、結
婚した。
 私達友人も、結婚式に出席した。
 マルチ夫婦の誕生である。
 幸せへの門出なのか、不幸せへの第一歩な
のか、私達友人は何とも複雑な心境だった。

 その後も、私達への勧誘は止まなかった。
 あまりにしつこいので、私は決意を持って
こう言った。
「お前はそのビジネスで将来リッチになるそ
うだが、貯金が一億円を超えたら連絡してく
れる?それ以外の話題はもう聞きたくないな」
 彼は「一億円!」とその額に少し驚いたよ
うだが、了承した。
 その日から、彼は私へ電話をしてこなくな
った。
 こちらからも連絡しないので、事実上の音
信不通となった。
 青春ドラマのセリフのようなことを言って
私を唸らせたNも、それから間もなく絶縁し
たそうだ。
 なぁ~んだ、Nも「言うだけ番長」だった
のか。

 その3年後、彼等夫婦は離婚した。
 マルチ商法に今も入っているのか、どうか
は私は知らない。 
 仲間内で彼のことが、話題に上がることは
無い。