不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

先物取引を勧める電話を受けてみる

 少し前の夜、電話がかかってきた。
 相手は録音された音声である。
 その会社は、エー・シー・イー・インターナショナ
ルという先物相場を扱っている会社であった。
 私は、いつもはこの手の電話はすぐに電話を切るの
だが、その日は付き合ってやろうと考えた。
 音声は女性の声で、いくつかの質問に答えると当社
について書かれた本をもれなく贈呈します、とのこと
だった。質問はイエスかノーで答えるらしい。
 質問が始まった。
「今、石油価格が高騰していますが、このことが社会
生活に及ぼす影響についてご存知ですか?」
と言ったような誰でも分かるような、つまりどうでも
良いようなことばかり、3問尋ねられた。
 質問の後に、住所、氏名、電話番号を聞かれた。こ
れも自動音声との会話である。
 電話はこれで終わった。

 4日後、その会社から本が送られてきた。
 ハードカバーのなかなかの装丁の本である。
 こういうPR本というのは、その殆どがインチキくさ
かったり、全編が虚偽に満ちているものである。
 まっとうな会社であれば、このようなPR本を出版す
る必要は無い。
 一応、全部を読んでみる。
 さすがにPR本だけあって、良いことしか書いていな
いようである。

 その後、ネットでこの会社について調べてみる。
 やはり、この会社も後ろめたいことをいくつもして
きている。
 日本の金融庁に摘発され、米国の当局にも在米の担
当者が逮捕されている、という前科があるのだ。
 良くこんな前科持ちが金融事業を続けていられるな、
とも思ったが、止めさせる法律と言うものが無い以上
どうしようもない。

 そのうち、この会社からセールスの電話がかかって
くるだろう。

 本が届いてから1週間後、その会社から電話がかか
ってきた。
 女性がソフトに語りかけてくるのだが、やはり上っ
面のことしか話さない。
 私は、黙って聞いていた。
 肝心の先物取引におけるリスクについては、何も言
おうとしないのである。知識の無い人間を取引に引き
ずり込むには、そうするしかないのだろう。
 相手は一通り話すと、是非当社のセールスと直接会
ってお話の時間を作っていただけませんか?と言って
きた。彼らは、これが目的なのである。そのために、
タダで本も送るのである。
 私は、静かに口を開いた。
 あなたの会社が、金融庁や米国の当局に摘発された
過去があるのは分かっているのです。
 昔だったら、新聞や週刊誌に載っても、しばらくす
ると忘れられてしまうかもしれない。また、一部の人
が泣き寝入りにあっても社会では知られないままにな
って過ぎていってしまうこともあった。
 でも、今はネットに情報が載る時代なのです。
 隠そうと思っても、出来ませんよ。ネット載れば、
半永久的ですらあるのです。忘れられても、検索され
ればまた確認可能なのです。
 それに、今ではブログが普及し、それらブログには
社会的圧力にも関係なく、自分達が関わったことに対
する率直なコメントが載せられているのです。
 あなたの会社は、ネット上もブログの上でも良くな
い評判しか見当たりません、と私は言った。
 電話の向こうの女性は、「その件はうちの社長がせ
っかちなものですから・・・」と意味の分からない答
えを返してきた。
 せっかちで摘発されていては、体がいくつあっても
足りない。
 それでは、摘発の件がこの本に記載されていないの
は何故ですか?と聞いてみた。
「その件はこの本が出版された後に起こったものです」
と言う。時系列から言うと、これは嘘である。
 それに、日本でも米国でも当局の摘発と言うものは、
対象となる人や法人が余程悪質なものでないと、行わ
れない、ということを私は話した。
 女性は、これを聞くと急にトーンダウンしてしまっ
た。図星だったのだろう。
 役所は、仕事を増やしたくないので、殺人、強盗、
放火、傷害、そして交通違反以外の事犯については、
動きが遅いか、まるで動かないことが多いのである。
 被害者の存在が大量であることが、社会的に判明
してからようやく動き出すものなのである。

 というわけで、せっかく本を贈ってもらいましたが、
このお話は無かったことにさせていただきます、と私
は言った。
 再度のお電話はお断りします、よろしいですね。
 電話の女性は、セールスの時の勢いのある口調から
一転し、大人しくなってしまった。
 私は、電話を切った。

 うまい話を、見ず知らずの相手に儲け話を持ちかけ
る等と言うことは、まず無いと思った方が良い。
 それは、人間の心理的特性上も明らかなのである。