不二家憩希のブログ

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「僕には数字が風景に見える」を読んだ。

 ダニエル・タメット著「僕には数字が風景に見える」 ]
講談社刊を読んだ。
 著者は、アスペルガー症候群という自閉症の一種と、
サヴァン症候群という特殊な脳機能をもたらす症状を
持っている。
 アスペルガー症候群は、他人とのコミュニケーショ
ンを取る事が不得手な傾向が強い。
 人として生きていくには基本的に他人とのコミュニ
ケーション能力は不可欠なものであるから、暮らして
いく上では不便も多いと思う。
 だが、この著者の場合はその症状に加えてサヴァン
症候群でもあるという点において、他の人とは際立っ
て異なる特徴を持っている。
 サヴァン症候群とは映画「レインマン」でダスティ
ン・ホフマンが演じた普通の人は持っていない能力を
持っていながらも、知能が低かったり日常生活を一人
では遅れないような異例の不器用さを持っている人の
ことを指す。
 服が自分では着られなかったりするらしい。
 サヴァン症候群とは、正しくはイディオ・サヴァン
症候群と呼ばれる。イディオとは愚かなという意味で
サヴァンは学者という意味である。
 著者のタメット氏は、瞬間的に計算が出来る。電卓
よりも早い。かなり複雑なものでも、瞬時に答えが出
せるのである。
 彼は、数字が映像として見えるらしいのだ。
 このあたりは、どうも共感覚者とも同様なのだが、
何しろサヴァン症候群共感覚者も絶対数が少ないの
で研究は殆ど進んでいない模様である。

 人間の中には、人智を超えた能力が潜在しているよ
うなのだが、それが一体どのような経緯で発動するの
か、未だ不明な点が多い。
 火事場の馬鹿力と言うが、そういった能力が日常的
に利用可能になれば良いのだが、まさかその度に家に
火をつけるわけにもいかないのである。
 私は、サヴァン症候群の人達に対する研究により、
その謎の一部分でも解明されるのではないだろうかと
思っている。
 日頃凡庸な暮らしをしている身の上としては、彼ら
のような一種超人的な能力を持つ人間に対しては、大
変興味を惹かれる。
 しかし、こういった興味は時に大きく道を誤る可能
性も大きいと言うことを常に念頭においておかなけれ
ばならない。

 超越に対する熱望は、日常からの離脱であり、それ
は本来見えるはずの物事を見過ごしてしまう危険性を
孕んでいる。そして、熱望はいつの間にか幻想に取っ
て代わってしまい、人を退廃へと導いていくのである。

 この本は、著者の半生を生々しく描いており、その
点でも一読に値する。
 こういった症状を持った人が本を著すと言う機会は
極めて少ない。
 それが実現したのも著者の超人的な能力のおかげで
ある。
 著者はこの能力と、どう付き合っていくのか。
 未来は予見しがたいものではあるが、著者は非常に
純粋そうな人のようなので、大きく道を踏み外すこと
もあるまい。
 そんな安心感も与えてくれる本でもある。