不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

理容店で二人連れのおばあさんに出会う。

 髪がだいぶ伸びてきたので、理容店に行った。
 髪質も細く、量も大してあるわけでもないのだが、そ
れでも伸びてくると暑苦しい。
 夏も終わろうとしている今頃行くのだから、私の季節
感もいい加減なものである。

 10時の開店に合わせて店に到着。一番乗りだ。
 まだ、1~2分あったので店の前に立って待つ。
 すると、背後から声がかかる。
「まだ、開店じゃないかねぇ?」
 振り返ると、銀色の車椅子に乗った70代のおばあさ
んとその車椅子を押すこちらも70代くらいのおばあさ
んの二人連れだった。
 おばあさんがおばあさんの車椅子を押している。これ
は珍しい光景である。
 通常、車椅子を押しているのは押されている人よりも
殆どの場合若いことが多いように思う。
 この二人の関係は、どうなっているのだろうか。
 車椅子を押している人は、押されている人の介護士
のだろうか。
 どう見てもそうではなさそうだ。生涯現役のご時世で
も、このぐらいの年で現役なのは政治家ぐらいのものだ。
 となると、姉妹か。姉妹にしては容貌があまりにも似
ていない。
 こういう介護を仲立ちにした関係は、両者の間に血縁
が有るか無いかがすぐ分かる。血縁があると、接し方が
とてもぶっきらぼうになるのだ。
 これは夫婦の場合でも同様である。
 だが、このおふたりは夫婦ではない。となると、どう
いう関係なのか?

 それからまもなく理容店は開店し私とふたり連れは店
に入った。
 私は理容椅子に座った。
 お隣は車椅子のおばあさんである。もうひとりのおば
あさんが、店の人の指示に従って車椅子を固定した。そ
れが終わると後ろの待合席の長椅子に座った。
 理容店でおばあさんと一緒になるのは久しぶりである。
 学生の時以来だと思う。
 私は、理容師さんに簡単にどう切って欲しいかを説明
した。この説明も実に適当なもので、実質的にはお任せ
みたいなものである。私は自分の髪型にも興味はない。
 ある程度生えているだけで御の字だと思っているのだ。
 だが、隣の車椅子のおばあさんはさすがに女性なので
注文がいろいろと細かい。理容師さんもそれを一度聞い
ただけで切っていけるのだから、プロというものは大し
たものである。
 
 それからカットも終わって立ち上がろうとすると、隣
のおばあさんも終わったようだ。あぁ帰るのだな、と思
ってみていると、今度は車椅子を押してきたおばあさん
が理容椅子に座ったではないか。こちらのおばあさんも
お客だったのだ。
 ただの付き添いではなかったのか。

 このおふたりの間柄は結局尋ねてみなかったので、正
確なことは分からないのだが、どうやらお友達同士のよ
うである。
 友達が友達の車椅子を押して一緒に理容店に行く。
 これが男同士の友達だったらどうだろうか?
 同じようなことが出来るだろうか?

 年をとってからの友人というものは、若い頃とはまた
違うものがあるに違いない。それがどういうものなのか
は、私にはまだ良く分からない。

 だが、見栄や体裁を考えなくてもいい付き合いという
のは傍から見ていてもほのぼのとしていて良いものであ
ることは今の私にも分かる。

 そして私は涼しくなった頭に風を受けて自転車を走ら
せて次の目的地に向かった。