ジェフ・ベックは、そのミュージシャン人生において2度もビッグチャンスをキャンセルしている。
一度目は、フェイセスを脱退したロッド・スチュワートが、ベックと組んで全米進出しようと誘った時である。
フェイセスのメンバーだったロッドの人気が沸騰し他のメンバーと軋轢を生むようになった。
レコード会社やマネージメントは「ロッド・スチュワート&フェイセス」として売り出そうとも考えていた。
それを面白く思わなかった他のメンバーから半ば追い出されるように脱退したのだった。
大人気のロッドがいよいよ本格的に全米に打って出る。
そこでロッドはベックに話を持ちかけたのだ。
最高の歌手とギタリストが組むのである。
実現すれば確実に成功する。
ベックのキャリアも何ランクも上がることは間違いなかった。
だが、ベックはあっさりと断った。
仕方がないのでロッドは単独で全米デビューし、大スターとなった。
2度目のビッグチャンスのキャンセルは、ローリング・ストーンズへの加入の打診を断ったことである。
ミック・テイラーがストーンズを抜けた際、ストーンズは真っ先にベックに加入勧誘の話を持っていった。
ストーンズは常にその時代の最高のギタリストを求めていたのだ。
しかし、この時もさらっと断ってしまった。
ストーンズは、当時モンスターバンドになっており、ビートルズ以降における世界最高のロックバンドとされていた。
ストーンズからの誘いを断るとは、正気とは思えない。
バンドに入れば地位、名声、富などあらゆる者が大量に押し寄せてくる。
それを拒否したのだった。
この2度のビッグチャンスを断った理由は何だったのだろうか?
それは、ベックのエゴの強さに由来すると思われる。
ロッドと組めば、ロッドの添え物、脇役、サポートと見做されることは避けられない。
ストーンズに入れば、ミック・ジャガーやキース・リチャードとは対等に付き合うことは決してできなくなり、一生頭が上がらなくなる。
ベックには、それが嫌だったのだ。
ベックは常に自分がトップでなければならない。
それが彼の最優先事項だった。
しかし、ロック・ファンとしては、ロッドと組んだベックや、ベック入りのストーンズも観てみたかった。
実に残念なことである。