私は自転車を走らせながらこう思った。
これからすぐ家に帰り残りの腕時計を持って来よう。
それらのうち一個は電池を入れ替え、残りは電池を抜いてもらおう。
私は家に着くと腕時計をまとめ、再度家を出た。
さて、今度はどの時計店に行こうか?
先程行った時計店は説明の仕方が冷たかった。
時計店ではよくある話である。
安物の時計に対して、軽く侮蔑の態度を載せてくるような店主が少なからずいる。
器が小さい私は、そうした言葉に敏感に反応してしまう。
やはり、これまでも利用していた、いつもの時計店に行くことにしよう。
その時計店は親切なのだ。
しばらく走るとその時計店に着いた。
店に入るといつものように柔らかい物腰で挨拶された。
私は持参した腕時計を渡し、電池を入れるのは一個だけで他は電池を抜いて欲しいといった。
すると店主はこう言った。
「蓋をあけるとその時点で料金が発生してしまいます。今回電池を入れ替えするのは一個だけにして、他はまた次回にした方が良いですよ」
なるほど、そう来るか!
蓋を開けることに料金が発生することは私も想定内である。
この店主は余計な料金を払わせないように配慮しているのだ。
この店主はいつもそうである。
以前には。私の時計の金属バンドの上部の軸が破損しかかっているのを見つけ、無料で修理してくれたことがある。
軸を取り替えてくれたのだ。
商売っ気が無さそうにみえるが、実際にはこの店は繁盛している。
目先の利益を追求するだけではないからであろう。
あぁ、この店の店主は良い人だなぁ。
いつもそう思う。
それなのに、私は200円安いということで他の店に浮気してしまった。
あぁ嘆かわしい。
目先のことしか考えていない(苦笑)
私はいつものように良い気分で店を後にした。
この良い気分は200円分を補って余りある。
反省させられる一件だった。