不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

腕時計の電池を入れる。その⑨

 それでは代わりの時計店を見つけなければな
らないが、どこが良いのかわからない。
 そこで隣駅前のM時計店に行ってみることにし
た。
 それは今から6年ほど前のことだった。
 私はM時計店については何も知らなかった。
 M時計店は有名寺院の門前町にあり何度か前
を通ったことがあるだけだった。
 ただ、何となく入り安そうな店だな、とは感じて
いた。
 その時私は電池の交換をお願いしようとしていた。
 すると、若い店主らしい男性が私から腕時計を
受け取り作業に取りかかった。
「あ~、バンドが傷んでいますね」と店主は言った。
 その時の時計は金属のバンドが少々壊れかけ
ていたのだ。
 「これはバンドの交換を勧められるな」と私は思
った。
 私も交換しようかな、と思ってはいたが、私はそ
のまま使っていたのだ。
 店主は「ちょっとやってみますね」と言うと作業に
取りかかった。
 どうやらバンドを直そうとしているようだ。
 あれ?そんなこと頼んでいないけれど。
 そうは思ったが、そのまま流れに任せてみるこ
とにした。
 どちらにしろ、付け替えようと思っていたのだ。
 それから数分後、店主は作業台から顔を上げた。
「出来ました!」
 店主はそう言って私に腕時計を渡した。
 直っている。
 金属なので修理は可能かもしれないが、これは
見事な出来ばえである。
 となると、修理代が要るな。
 私はそう思い尋ねると、店主はこう言った。
「いえ、電池代だけで結構です!」
 えぇ~そうくるか!
 私にとって思わぬ答えだった。
 ここまでやって修理代を請求しないとは、珍しい。
 店側で勝手に修理したということなのか?
 そういう営業姿勢なのか?
 ちょっと新聞等で読む「ちょっと良い話」の様な店だ。
 私がこの時計店を気に入ったことは言うまでもない。
 
 ~続く~