私の両端にはKさんとSさんが座った。
Kさんは男性、Sさんは女性で二人とも私の両親の世
代である。
座ると早速Sさんが話しかけてきた。
さっきまでクルマの中でおしゃべりをしていたのに、ま
た話すのか。
いずれにせよ、実のある話ではあるまい。
私は聞き役に徹した。
話はどれも当たり障りのない、別の意味では意味のな
いものばかりである。
それも楽し気な明るい話題ばかりである。
通夜の席で明るい話、遺族が耳にしたら気分を害す
るだろう。
だが、そんなことは御構い無しである。
通夜・葬儀の場では、ある種の人たちは気分が高揚し
てしまい、はしゃいだ感じになる。
これは自分自身の死を連想しないようにと無意識がそ
うさせているかのようだ。
あぁこんな話をするくらいなら、少しは黙っていたらどう
なんだ。
ここは通夜の席であり、おしゃべり・雑談の場ではない。
子供じゃあるまいし、良識は無いのだろうか。
おしゃべりは、なおも続く。
自分も遠からず故人となるのに、そうした自覚は一切無
いようだ。
「皆は死んでも、自分はまだしばらくは死なない」
そんな便利な思い込みに支配されているようだ。
80過ぎまで生きてきていったい今まで何をしてきたのだ
ろうか?
~続く~