不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

フィル・ウッズ氏、ご逝去。その⑦

 私は当ブログで「フィル・ウッズは、熱い男で
ある」とたびたび記してきた。
 それには明確な根拠がある。
 以下は2011年11月20日当ブログに掲載された
記事の再録である。


 昨日のブログ記事に頂戴したコメントに関連

したことを忘れないうちに記しておくことにする。

 それは、今春のフィル・ウッズの来日公演の

ことである。

 フィル・ウッズは、1931年11月生まれの米国

のジャズ・アルト・サックス奏者である。

 チャーリー・パーカー以降に現れた多くのアル

ト・サックス奏者の中でも最高の一人に数えら

れる人である。

 その活躍は、ジャズ界だけにとどまらず、ポッ

プス等での客演でもよく知られている。

 特にビリー・ジョエルの大ヒット曲「素顔のまま

で」の後半におけるサックス・ソロは、有名である。

 フィル・ウッズが来日したのは、3月20日過ぎだ

った。

 あの震災の直後である。

 クラシック、ジャズ、ロック、ポップス等々、殆ど

のミュージシャンの来日がキャンセルされた。

 普段威勢のよいことを言っているロックミュージ

シャンもすぐに来日を取り止めた。

 マンハッタン・トランスファー、ディオンヌ・ワーウィ

ック、ジミー・ペイジリチャード・トンプソン等々、大

勢い過ぎて記しきれない。

 ジャズ・ミュージシャンの来日は、その殆どが中

止になった。

 日本側では、邦人ミュージシャンの代替で対応せ

ざるを得なかった。

 そんな中で、唯一来日したのがフィル・ウッズと彼

クインテットである。

 日本のプロモーターは、フィル・ウッズに「キャンセ

ルするならしても良いですよ」と言った

 それに対しフィル・ウッズは「こんな大変な時だか

らこそ、たとえ観客が一人であっても自分の演奏を

楽しみに待ってくれている人がいるなら、日本に行く」

と答えたそうだ。

 そんなフィル・ウッズを家族をはじめ関係者は来日を

思いとどまるように説得しようとしたのだが、彼の意志

は固くそれを受け入れようとはしなかった。

 フィル・ウッズは、バンドのメンバーに「もし日本に行

くのが怖いなら、今回は来なくていいよ」と言ったそうだ。

 だが、メンバーは全員がライブ・ツアーに参加したの

だった。

 彼のバンドは、ベースとドラムは35年来不動のライン

ナップであのヨーロピアン・リズムマシーン時代からの

付き合いだ。

 ジャズ界で35年とは異例中の異例である。

 バンドのメンバーにしてみれば、「ボスにお供します!」

というところだったのだろう。

 フィル・ウッズは「メンバーには本人の意思に任せる

と伝えた。いざとなったら自分一人で行って日本のミュ

ージシャンたちと共演しようと思っていたが、みんな一

緒に来てくれた」そうだ。

 うーん、良い話である。

 メンバーは、ベースがスティーヴ・ギルモア、ドラムが

ビル・グッドウィン、ピアノがビル・メイズ、トランペットが

ブライアン・リンチという顔ぶれである。

 このうちピアノのビル・メイズとトランペットのブライアン・

リンチは自身がリーダーを務めるバンドでも何枚もの盤

を発表している人気の腕達者である。

 ただ、ツアー・マネージャーだけは本当に来日を止めた

そうだ。

 ライブでは、フィル・ウッズは震災についてのコメントは

しなかったそうだ。

 そんなことをライブの場で口で言うよりも自分たちは楽

器で現すことができる、ということなのだろう。

 この来日公演が大いに盛り上がったことは言うまでも

ない。

 そして、楽屋で彼は訪れた音楽関係者にこう語った。

「俺は放射能なんか怖くねぇ。仮に体に影響が出るとい

ったって30年後とかだろう?俺を何歳だと思っているん

だ!」

 うわぁ~、凄いな、この人。

 かっこ良過ぎる。

 こういう人を男の中の男というのである。

 真に偉大な男とは、こういう人のことを言うのである。

 フィル・ウッズは私は前から大好きだった。

 今回の件で、私はより一層彼のことが好きになった。


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 如何だっただろうか。
 2011年のあの頃、原発事故後の風評が世界中に
広まった。
 世界の大手の放送局・報道機関が「こんな風評が
流れています」とご丁寧にいちいち紹介していった
ので、余計に広まってしまったのである。
 私は、そうした流れを観察・チェックしていた。
 世界中で「日本は危ない」という認識が広がった。
 反米、反露、反キリスト教、反イスラム、等々、普
段反体制を自認し威勢がいいことを言っていた人
たちが、一斉に来日をキャンセルしていった。
 そんな中でのフィル・ウッズと彼のバンドの来日で
ある。
 これはなかなかできることでない。
 記事中にもあるように、ウッズはライブのステージ
では震災についてのコメントを、一切しなかった。
 これは観客への思いやりであろう。
 起きてしまった事故について、口でいろいろ言って
も仕方ない。
 観客も十分わかっていることでもある。
 そんなことより、今は私たちの音楽を聴いてくれ、
といったところであろうか。
 フィル・ウッズと彼のバンドは、男の中の男である。
 真に熱い男は、自らの行動をもってそれを表すの
である。
 ウッズは没した。
 だが、彼の残した作品はこれからも永遠に聴き継
がれていくことだろう。
 私はウッズの作品を聞いて、彼を忍びたいと思う。