その男性は店の主人のようだった。
茶色の濃淡の柄のセーターに茶色のゆったりした
ズボンを穿いている。
金物屋の店主という感じではないな。
ブティックのオーナーという出で立ちだ。
私は探している小鍋について尋ねた。
店主は、いくつか鍋を出して並べて見せた。
だが、いずれも私の要望とは少しずつ外れている。
形も違うし、サイズも違う。
何より価格が大きく違う。
高すぎる。
高級品、人気ブランド品なのだろう。
それらは私の想定を大きく超えていた。
私は、希望に添う品が見当たらない旨を店主に告げ
店を出た。
当地にこんな店があったのか。
店の外見通り、品揃えも高級品ばかりだった。
東京とかの大都市ならともかく、当地のような地方都
市にあるとはちょっと意外だった。
特別繁盛しているようにも見えなかったが、熱心な固
定客がいるのだろう。
他店との差別化を図っての高級化なのか、元々そう
いう経営方針なのか。
隣の市でも私の知らない店が、いくつもある。
近くに住んでいても知らないことは、いくらでもあるのだ。
私はその店をあとにし、他の用事先に向かった。