私は自転車で走っていた。
市内を南北に行く県道を走る。
わが家に近付いた辺りで、風景が以前と少し違っ
ているのに気がついた。
あれ?
S屋さんが無い。
建物が無くなっている。
S屋さんはわが家の最寄りの食料品店だった。
本業は青果店だったが、他にもいろいろな品物を
置いてあった。
鮮魚以外のものは一通り揃っていた。
此処へ来れば一軒だけで日々の食材は手に入っ
た。
わが家とS屋さんとのお付き合いは長い。
S屋さんが、この地で創業した頃から母は毎日の
ように通っていた。
店主の奥さんと母は気がとても合ったようだ。
店とお客の関係を超えていたようだ。
私の祖母の葬儀の際には、参列し香典も頂いた。
私はS屋さんの食料品で育ったようなものだった。
その後、S屋さんは、市内の数キロ離れたところに
新店舗を出した。
経営陣や従業員は新店舗に移り、わが家の最寄り
のそのお店は、閉店し建物だけが残された。
その建物も無くなってしまった。
私の幼いころの思い出と結びついた店だった。
寂しい気持ちである。
商売にはとても適した場所なので、何か新しい店が
できるのだろうか?