不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

初盆法要へ行ってきた。その⑨

 私は最寄りの駅から電車に乗った。
 私が電車に乗るのは久しぶりである。
 車窓ははいつもの見慣れたものから、少しずつ
移っていく。
 商店やマンションが並ぶ町並みから次第に民家
だけになる。
 それら民家も、一駅ごとに少なくなる。
 眺めはアスファルトやビルのグレーから田畑や森
林の緑が基調となっていく。
 電車は山間部に向かっているのだ。
 1時間もすると、沿線の風景は山の麓の町といっ
た感じになる。
 電車はなおも走り続ける。
 車内は帰省ラッシュからは外れていたためか混
雑もない。
 時折乗り降りはあるが、車内のお客の顔ぶれに
は殆ど変化がない。
 始発駅から乗ってきたのであろうお客が大半であ
る。
 先程から降り始めた雨が窓ガラスに斜めに降りつ
けている。
 接続する他の列車が大雨で遅れている旨が車内
放送でアナウンスされた。
 この週は大気が不安定で午前中と午後とは正反
対の天候の日ばかりだった。
 遠くに見えていた山並みが、すぐ近くにまで迫って
きている。
 電車はトンネルをいくつも抜けていく。
 沿線の渓流の水は、ここ数日の大雨でミルクティ
のように濁っている。
 私の乗車時間は3時間半を経過した。
 通過する駅名は、古い記憶を呼び覚ます。
 もうそろそろ到着か。
 子供の頃、一人でその親戚の家に遊びに行く時、
下車駅手前のいくつかの駅名を憶えたのだ。
 鉄道に特に興味があったわけではない。
 乗り過ごしては大変だからである。
 この下車前の数分間が最も緊張したことを憶えて
いる。
 ◎◎駅の次は△△駅、それから□□駅で降りる
のは○○駅だ。
 電車はゆっくりと○○駅に止まった。
 私は手土産のそうめんの入った袋を持ってホーム
に降りた。
 少し雨が降っている。
 私は折り畳み傘を取り出して差した。
 念のために持ってきて良かった。
 今回始めて差す傘である。
 その昔、マ○ヤデンキの粗品でもらったのだ。
 何とも安っぽい作りである。
 お値打ち品好きの私でも、この傘は買わないだろ
う、という品だった。
 こんな傘を粗品にしていたからマツ○デンキの経
営も雨漏りがしたのだろう。
 それでも、無いよりはましである。
 私は、改札口に向かった。
 この駅も無人駅だった。
 長い間乗車して、到着駅が無人駅だと(あぁ、遠く
に来たんだなぁ)と思えてくる。
 私は切符を箱に入れて改札を抜けた。
 
 ~続く~