夕方、お隣のNさん宅の玄関先から話し声が聞こえる。
「長い間、どうも有難うございました」
どなたかがお別れの挨拶に来ているらしい。
そ少しするとその声の主たちが我が家に近づいてきた。
もう一方のお隣のKさんご夫妻とその一人息子の奥さんである。
この顔ぶれは珍しいな。
いつもはKさんの旦那さんか奥さんのどちらかが単独で来られる。
息子の奥さんが来られたのは、Kさん宅が班長の年に代理で集金に来たのが一回あるだけだと思う。
それも10年近く前のことだ。
一人息子の家は我が家と同じ通りにある。
我が家からは東に200メートルほど離れていて、町内会的には隣の班になる。
スープの冷めない距離と言うやつか?
200メートルだと冷めるかもしれない。
Kさんの旦那さんが話し始めた。
「私も家内もすっかり年をとってこんなふうだし、息子の家に世話になることになったんだよ」
「今の家は空き家ということになるけれど」
えぇ~、そうなんだ。
私は驚きを押し殺して平静を保つ。
そして挨拶の品を受け取る。
高級洋菓子である。
それから、いろいろとお話をした。
いずれ、こういう日がくるかも?とは薄々感じていたが、知らせは急だった。
引っ越しは秋分の日位までには済ませる予定だそうだ。
引っ越すと言っても、さしあたって必要な物だけを移動させるだけであろう。
空き家になると言っても人が住まないだけで、家財道具がごっそり無くなるわけではあるまい。
要るものは、その都度取りに来るようだ。
Kさんご夫妻と息子の奥さんは、ご近所に挨拶で回っているようだ。
Kさんがお隣に住んでいるのはあと数日ということになる。
寂しいものがあるなぁ。