TSさんの話はお墓から家の宗旨に移って行った。
「うちは『新家』なのでお寺はないの」
「お寺とかそういうのはない」
これを聞いて皆が黙る。
部屋の空気が空気が白くなる。
そうは言っても親の代には何か宗教があっただろう。
親の死に際し、僧侶などの宗教家を呼んで通夜・告別
式をしたはずだ。
TSさんは地元の出身者である。
その時の寺に頼むわけにはいかないのか。
寺としても新規顧客の獲得なので内心喜んで来るはず
だ。
そうした関係先もないようだ。
そのため葬祭業者に寺を紹介してもらったそうだ。
宗旨は奥さんの実家と同じ宗派としたそうだ。
そういえばTSさんは、生前宗教に対し気持ちのこもらな
い態度をとることが多かった。
露骨ではないが明らか無い「私は興味ありません」という
ことが容易にうかがい知れる物腰だった。
奥さんも同様である。
ちょっと驚くような、気分を害する言動に接したこともある。
唖然としたこともある。
そのあたりは長年連れ添った夫婦なので似てくるのだろ
うか。
あるいは似ているから結婚したのか?
TSさんの家では、世間体を考えて坊さんを呼んで、通夜・
告別式をするということである。
日頃、寺とは付き合いのない家は多い。
それは特に悪いこととではかろう。
葬式仏教と化してしまった現代の仏教界と日頃から付き
合っている人は、かなりに信心家であろう。
だが、まるっきりゼロというのも少ないと思われる。
親の家が何宗か、くらいは把握しているだろう。
集まった皆は「ほぉ、そうなの」と聞いてはいたが心中は、
少なからず驚いていたに違いない。
それは表情に表れていた。
~続く~