Iさんのお通夜が終わり、皆さん散会となった時のこ
とである。
当地では、お通夜に限り退場時に参列者全員に、お
菓子を進呈する。
特に価格帯が決まっているわけではないが、概ね
1~300円台程度である。
袋もしくは手提げボール箱に入れられるか、包装なし
で現物をそのまま渡されることもある。
「急の逝去で包装をしている暇もないので、ご容赦くだ
さい」という言い訳を汲み取ることになる。
当市と周辺の市では、そういう風習になっている。
式が仏式であっても神式であっても、同様である。
宗派を超えた風習ということだろう。
このお菓子の進呈は告別式では、しない。
お通夜の日だけである。
私は、退場する人の群れに入った。
出口付近には、Iさんと同じ班の人たちがお菓子を手渡
すためにずらりと並んで立っている。
そこで、珍しい声を聞いた。
「ポコちゃん!ポコちゃん!」
私を呼び止める女性の声である。
んとしているが、現実では違う。
本名の苗字の一部をニックネーム化した呼び名である。
例えば杉本だったら「スギちゃん・杉サマ」、滝沢だった
ら「タッキー」といった感じである。
「ポコちゃん!」
この呼び方をする人は、ごく限られている。
昔からの知り合いがほとんどである。
えぇ~誰だ?
私はその女性の顔を見る。
誰だ?
顔に見覚えが無い。
「あなたは誰ですか?」と尋ねようか。
それもちょっと失礼だよなぁ。
女性は、Iさんのと同じ班なので手伝いのために来てい
るようだった。
少し躊躇しているうちに、私は後列の人に押し出せれる
ように会場の外に出た。
う~ん、誰だろう?
そんな人が当町内に引っ越してきたのだろうか?
謎である。