不二家憩希のブログ

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ピーター・フォーク 刑事コロンボへの日々 その21

 ピーター・フォークの1963年の映画出演は
1本だった。
 ”It's a Mad Mad Mad Mad World ”である。
 "Mad"が4つも続いている。
 日本公開時には”おかしなおかしなおかしな
世界”の邦題がついた。
 このタイトルから察せられるように、喜劇、そ
れもスラップスティック・コメディである。
 スラップスティック・コメディとは、その昔の舞
台の道化芝居の小道具に由来する。
 こうした芝居では、テンポよく相手をひっぱた
いて話が進んでいく。
 今で言うところの”どつき合い”である。 
 その際に使われた棒は、先端が割れており、
これで叩くと大きな音はするが痛くはない。
 日本で言うところのチャンバラトリオのハリセ
ンのようなものである。
 叩く=スラップ・棒=スティック、スラップ・ス
ティックである。
 英国人や米国人は、基本的にこうした動きの
ある視覚的なコメディが大好きなのである。
 これは少なくともシェークスピアが現役の劇
作家だった頃からの伝統である。
 英米では動き大きいの舞台喜劇全般を、スラ
ップスティック・コメディと呼ぶようになり、映画
の出現により、それらを扱ったコメディも同様の
呼び名で呼ばれるようになった。
 日本では、ドタバタ喜劇と訳されることもあるが、
日本のそれは個々の俳優のアドリブとその場の
展開に頼る部分が多い。
 一方、本来のスラップスティック・コメディは、綿
密に脚本が書かれ演出もよく練られており意味合
いがが異なる。
 計算された一種の様式美といえる動きに支えら
れたストーリー展開は、英米のコメディの歴史と水
準の高さを物語っている。
スラップスティック・コメディである。
 この作品では、脚本が2冊用意された。
 一冊はセリフが記された通常の脚本、もう一冊に
は動きの指示だけが書かれていた。
 作品を見ると、俳優たちが細かい設定の元で演
技をしていることがよくわかる。
 監督・製作は、スタンレー・クレイマー、”渚にて
等多くの作品を生んだ巨匠である。
 またフォーク62年に出た”プレッシャー・ポイント”
の監督でもある。
 当時テレビや映画で人気の喜劇俳優を集結させ
て作られており、主役は12人!もいる。
 フォークは、配役序列で24番目で、役名は”三番
目のタクシー運転手”という名無しの役だった。
 それでも、セリフは少しだけだがあり、アップにな
るシーンもいくつかある。
 黄色い帽子がよく似合っており、本職の喜劇俳優
たちに負けない押し出しの強さを見せている。
 フォークは、以前は喜劇を嫌っていたのだが、この
頃にはすっかり喜劇もこなすようになっていた。
 これも”ポケット一杯の幸福”でフォークの知られざ
る喜劇の才能を見いだし引き出してくれたフランク・
キャプラ監督のおかげである。
 
 2時間40分に及ぶ大作が、何とこの2本で見られる。
 英国のテレビ放送の録画のようだが、CMもその
まま入っている。
 これなら削除の可能性が低いかもしれない。
 フォークが登場するのは2本目の冒頭からであるが、
是非1本目からご覧いただきたい。
 様式美にあふれた笑いの手法が、ふんだんに盛り込
まれている。
 オープニングのタイトル・ロールである。
 登場人物の多さには圧倒される。
 
 ~続く~