不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

家族が肺がんで亡くなっても。

 私の伯父は肺がんで60代で亡くなった。
 長年の喫煙者だったので主な原因はやはりタ
バコであろう。
 その伯父のお通夜の席での話である。
 伯父には二人の息子がいる。
 私にとっては従兄弟である。
 年齢も私とほぼ同じだ。
 そして二人とも伯父と同じく喫煙者である。
 その二人の息子が亡き父の棺を前に喧嘩を始
めた。
 喧嘩の種は”棺にタバコを入れるか、入れないか”
である。
「親父はタバコが原因で苦しんで死んだのだ。
それを入れるなんて駄目だ」
「でも親父はタバコが大好きだったんだぞ。好きな
ものを入れて何が悪い」
 周りでは親戚が、その様子を見守っていた。
 仲裁に入ろうにも、難しい。
 これは、どちらの意見にも一理ある。
 手は出ないものの、兄弟喧嘩なので、かえって手
加減が無い。
 言い争いが続いた後、結局タバコを棺に納めるこ
とになった。
 憎いタバコではあるが、故人が好きでもあったタバ
コである。
 それを棺に納めるということは、彼ら兄弟にとっても
いろいろな思いがあったに違いない。
 「あぁ、これでこの二人もこれを機に禁煙するのだろ
うな」とそこにいた皆が思った。
 そんなしんみりした空気だった。
 
 それから数年後、私はこの兄弟と会った。
 話が一段落した後、二人はそろって胸のポケットか
ら小箱を取り出した。
 そして白い小さな筒を口にくわえた。
 タバコである。
 二人はタバコをやめてはいなかったのだ。
 あぁ、なんと愚かな兄弟だろう。
 二人は、私の顔に煙がかからないように煙を吐き出
した。
 そんな気遣いをしている場合なのか。
 自分の体の心配はしないのか?
 愚かさとは、なかなかの重病である。