会長が開式の挨拶を始めた。
大いに型にはまった文句が並べられている。
この挨拶・口上は伝統的に決まっている。
他の役員の説明の仕方も言い方が決まっている。
ナンセンスではあるが、そうなのだ。
ある年の会計の人が、自分の言葉で説明をしようとし
た。
普通の丁寧語である。
方言を交えたわけでも乱雑な表現をしたわけでもない。
細かい言い回しを自分でアレンジしただけである。
するとすぐに他の役員からクレームがついた。
二人は言い争いになった。
他の役員は細部にまで伝統を守るようにと強く主張し
た。
会計の人は、それを突っぱねた。
互いに譲らなかった。
当町内会では、こうした愚かな伝統重視の気風が残っ
ている。
それに気づいている人は大勢いる。
波風を立てて揉めても面倒なので、黙っているだけな
のだ。
だが、伝統重視派の人も一定数が存在する。
彼らはその影響力を維持し続けている。
伝統に対する盲従であり狂信である。
他の社会ではありえないことが、町内会では生きてい
る。
特殊な世界である。
~続く~