父は次第にマッサージチェアを使わなくなっ
ていった。
マッサージチェアに飽きてきたのである。
当時としてはナショナルの最新鋭機であっ
たそのマッサージチェアではあったが、その
機能はあまりにシンプル過ぎた。
基本のマッサージのバリエーションが少なか
った。
ひとつは、背中の上下をローラーで揉む、もう
ひとつはローラーでさする、だけなのだ。
そしておまけのようについている微弱電流の
足裏からの通電機能である。
背中ばかりを毎日マッサージしても、肉体の
疲れはそれほど取れない。
マッサージによる他動的な筋肉刺激には限
界がある。
なんでも他者にサービスしてもらえば良いと
いうものでもないのだ。
父はマッサージチェアに座らなくなった。
他の家族も使わなくなった。
やはり飽きたのである。
このマッサージチェアは、まだ世間に出始め
の頃の電化製品であり、それなりに高価だっ
たはずである。
だが、使われなくなればただの置物である。
マッサージチェアは、部屋の隅で家族の誰か
らも省みられることの無い存在になっていった。
しかし、そんなマッサージチェアも再び脚光を
浴びる日が来たのだった。
~続く~