不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

星のフラメンコを歌うふたり

 夕方の6時を過ぎると、少しだけ涼しい風が吹いてくる。
 この時期、この時間はまだ明るくて家の前に道を行く人
の様子もよく分かる。
 そんなに人通りのある場所ではないのだが、それでも朝
夕には通勤・通学の人が歩いていくのが見える。
 
 私はパソコンをいじっていた。
 すると、突如、女性が大声で歌う声が聞こえてきた。
「好きなぁんだけどぉ~、離れてるのさぁ~♪」
 あれは、西郷輝彦の星のフラメンコではないか。
 しかも歌っているのは二人で、歳は50代位である。
 見ると、歩きながら歌っている。一日の仕事を終え、帰
宅途中のようだ。
 声の大きさは吉田美和も後ずさりするほどの大音量であ
る。子供が大きな声で歩きながら歌を歌っている、という
のはよくあることだが、大人が同様にして歌うというのは
珍しい。
 聞いていると、片方の女性がもうひとりに歌唱指導して
いるようだ。
「だから、いい?ここは、こうなんだってば。好きなんだ
けどぉ~♪ いい?わかる?」
 路上で歩きながらの歌唱指導である。
 二人は、なおも歌っている。ハモッてはいない。ユニゾ
ンである。
 大人が二人で大声で歌うと、かなりの音量である。
 勿論、カラオケなしのアカペラである。
 夕暮れの静かな家々に、星のフラメンコが響き渡る。

 今、西郷輝彦のブームなのか?
 何故、星のフラメンコなのか?
 それにこの曲は、普通女性が歌う曲ではないのではない
か?無論、歌っても良いのだが、何故50代の女性が二人
して歌っているのか?
 職場で納涼カラオケコンクールが控えているので、その
練習なのか?
 NHKのど自慢の予選が近々開催されるのか?

 実は、私はこういう風景は大好きなのである。
 これが夜中だと迷惑なのだが、それ以外の時間であれば
大いに歌えば良いと思う。
 人の目や耳を気にせずに歌う、という行為にはとても好
感が持てる。
 大人が歩きながら、なつかしの大ヒット曲を二人して歌
う。
 とても平和な感じがするのだ。
 牧歌的という言葉あるが、この場合は何と言うのだろう
か? 
 ほとんどの場合、歌のあるところには平和があるし、争
いは起こりにくい。
 不良の喧嘩が題材になっているウェストサイドストーリ
ーがどこか幻想的なのは、ミュージカルだからである。

 怒りのあるところに歌は存在しない。
 歌っている人は大体幸せな人だ。

 あの二人はお盆休み明けの1週間が無事終わり、ほっと
した気持ちだったのかもしれない。
 
 二人の熱唱は、セミの合唱をバックにして通りに響き渡
っていた。
 市民の平和はこんなささやかなもので成り立っている。

S41 星のフラメンコ 作詞・作曲浜口庫之助 歌・西郷輝彦

好きなんだけど 離れてるのさ
遠くで星を見るように
好きなんだけど 黙ってるのさ
大事な宝 かくすように
君は僕の心の星
君は僕の宝
こわしたくない なくしたくない
だから 好きなんだけど
離れているのさ
好きなんだけど 黙っているのさ