予言と救済を約束する霊獣は他にもいた。
幕末に石川県に出現した双頭の鳥である。
黒い体に頭はそれぞれ白と黒である。
1858(安政5)年に旧市川村(現山梨市)の名主の喜左衛門が記した「暴
瀉病流行(ぼうしゃびょうりゅうこう)日記」によると
「来年の8月・9月のころ、世の中の人が9割方死ぬという難が起こる。そ
れについて、我らの姿を朝夕に仰ぎ、信心するものは必ずその難を逃れるこ
とができるであろう」と告げた。
この9割が死ぬという疫病はコレラだった。
この鳥は自分の姿を朝夕に仰がせ信心を求めている。
信心を要求している点が、その他の霊獣とは異なっている。
宗教色があるのだ。
日記は続けてこう述べている。
「これは熊野七社大権現のすぐれた武徳をあらわす烏であると言われている。
今年の8月・9月に至り、多くの人が死んだ。まさしく神の力、不思議なお告
げである。」
熊野の鳥であれば、八咫烏の関係者、否、関係鳥なのか?
その他の霊獣とは毛並みが違うということなのか?
だが、有名知己がいれば良いというものではないぞ。
この鳥は名を名乗らず、長らく無名のままだった。
山梨県立博物館により”ヨゲンノトリ”と名付けられた。
今回の新型コロナ肺炎ウイルスにより注目を浴びている。
既にヨゲンノトリの姿をラベルにあしらったワインも発売されている。
山梨県民はなかなかフットワークが良いようだ。