」ろうか?
「Hさん」とか「お隣さん」とか言わないのだろうか。
Sさん宅は家が建って以来、55年近く周囲に建造物が
無い、お隣さんがいない環境だった。
新築当時には、本当に何もない場所だった。
そこへお隣に家ができた。
Sさんは困惑しているのであろうか?
土地の造成が始まった頃に、Hさん側からSさん宅へ何
らかに挨拶があったものとも思われる。
実はHさんは、全くの他所からの転入者ではない。
新居の土地は元々同じ町内で隣の班の方の所有である。
その子息がHさん夫婦なのである。
しかも、地主の方の家とSさんの家とは20メートルほどし
か離れていない。
新居の建築が始まった頃、私はSさんと話す機会があっ
た。
「あぁ、お隣さんができるんですね」と水を向けたのだが、
Sさんの表情は心なしか芳しいものではなかった。
嫌がっているというほどではないが浮かない顔だった。
それを見て私はすぐに話題を変えた。
お隣ではあるが、両家の建物自体は少し離れている。
Hさん宅は家の周囲の庭を広く取ってあるためだ。
それでもお隣である。
Sさんは90歳近くになって、お隣さんが出来たことになる。
半世紀以上、お隣がいない環境からお隣が出や環境へ
の移行である。
「あっち」という大人気ない発言に、Sさんの戸惑いと、元
からの性格の癖の強さが伺われた。
90歳近くとも、世間的に上手に振る舞えるか否かは関係
ないようである。