小雨は降り続ける。
幹線道路の歩道にINさんと私は立っている。
時折INさんが話しかけてくる。
「お父さんが亡くなって何年になる?」
「お母さんが亡くなって何年になる?」
私の両親とINさんとは世代がほぼ同じであったこ
となどから、親しかった。
他にもいろいろと尋ねられる。
そんなこと知ってどうする?というようなことも聞い
てくる。
このあたりのことを割と平気で聞いてくるという感
覚が、当地が田舎とされている所以であろう。
人口や各種産業の生産高、取引高の数字を見れ
ば、当地は田舎とはいえない。
だが、他者のプライバシーの領域にずんずんと入っ
てくるこのコミュニケーション・マナーは、まさしく田舎
のそれである。
この件について記すと長くなるので、ここでは割愛
する。
私もかつては、こういったことをズケズケと聞かれる
と少なからずムッとしたものだ。
特に10代、20代の頃は実に不快に感じた。
それが、年月が過ぎると感覚が変わってきた。
(まぁ、聞きたいのならはなしてあげよう)となってき
た。
いちいちこちらが気分を悪くしてはつまらない。
それに聞いてくる方も、ただの暇つぶしで尋ねてい
るだけである。
少しはそれに付き合って上げよう、という気になって
きた。
また、きっちり返答することによって会話のコントロー
ルがこちら側でもできることに気がついたのだ。
我ながら、随分大人になったものである。
もっとも戸籍の年齢は、既に十分すぎるほど大人で
はある。
~続く~